2007年06月10日
 ■  VXyeufNV氏作SS「続くオンマイオウン inJ」

スーパーロボット大戦J 萌えスレ8夜目
http://game11.2ch.net/test/read.cgi/pokechara/1158345975/l50


96 :名無しさん@お腹いっぱい。 :2006/09/27(水) 09:33:17 VXyeufNV
フルメタベースのJSSを考え付いたんだけど……ここに張ってもいいかな……?





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とっぷり日も暮れて、そろそろ寝ようかという時に、電話が鳴った。見覚えの
無い番号だったのでいぶかしんだが受話器の向こうから聞こえたのは聞き知っ
た声だった。
「もしもし?」
「……紫雲か?」
「なんだ、宗介か?どうしたんだよ」
 まだテレビを見ている三人の邪魔にならないようワイヤレスを自室まで持っ
ていく。

「なんだ、宗介か?どうしたんだよ」 「時間が無い。手短に話す」by二伐目氏

「時間が無い。手短に話す」
 彼らしからぬ強引な話の持っていき方にいささか驚きつつも話を聞いている
と、彼の切羽詰る理由がよくわかった。
 例のガウルンと同じ組織の幹部が千鳥かなめの部屋に侵入していたこと。そ
の幹部から最後通告のような台詞を受け、現在潜伏中であること。
「事が事だけに、お前や兜、弓にしか頼めん。ラフトクランズは動かせるか?」
 ウィスパードとかいうものの関係でかなめが誘拐されたのだという事実を知
っているのはあの場に居たメンバーだけである。
「ああ……俺の声紋、指紋、虹彩ならいつでもネルガルのドックに入れるよう
にしてもらってる。必要になるか?」
「そうならなければいいが……脱出路の確保より先に敵のASが来るかもしれん」
「アーバレストは?」
「連中の目標はミスリル全体とも考えられる。ダナンの連中に無理はさせられ
ん」
 つまり、仮に敵がヴェノムタイプのASを繰り出してきたらマジンカイザーや
ラフトクランズの力技で突っ切るしかないということか。
「既に兜、弓にも連絡しているが数で押されては敵わんかもしれん。……こん
なことを頼める義理ではないかもしれんが、手を貸して欲しい」
 妙にそうたのまれた。
「何言ってるんだ、仲間だろう?俺たちは」
「……すまん」
 リビングに受話器を戻しにいく。
「相良くんですか?」
 コーヒーを入れているカティアが尋ねてきた。テレビでやっている特番、ま
だまだ見るつもりらしい。
「ああ。それじゃあそろそろ俺は寝るよ。お前らも早めに切り上げろよ」
「はい」
 再び自室に引き込み、寝間着から外出用の服に着替え、他の服やら何やらを
布団の下に入れる。寝ているように見えなくも無い。
 あすの夕方までには戻る。と書置きを机の上に残してそっと部屋を出て玄関
まで行き、音を殺して家を出た。


「あれ……?」
 一瞬、扉の開く音がした気がしてカティアは廊下を覗き込む。誰もいない。
 統夜が買い物にでも出かけたのかと部屋を覗くとベッドの上、布団にくるま
った人影があった。
「どしたの?」
 リビングに戻ったカティアにテニアが尋ねる。
「なんでもないわ。気のせいだったみたい」
 首を振りながらコーヒーとお茶請けをお盆に載せ、テレビの前でごろごろし
ている二人のほうへ向かった。

 最寄の大通りからタクシーを拾って一路神奈川方面へ。
 車内で少しでも休息をとっていた方が良かったのかもしれないが、半年振り
の戦いが目前に迫っているためか一睡も出来なかった。
 ガウルンのいた組織とミスリルとはこれまでにも何度かやりあっていたらしい。
 夏休み明け直後に宗介とかなめがそろって無断欠席をしたのも十中八九その関係だろうと統夜は見ていたし、この前のクリスマスにはシージャック犯を装ったミスリルの皆さんと海上で鉢合わせもした。
 そこでふぅと一つ深呼吸。
 大丈夫だ。これまでも何度かピンチはあったけど乗り越えてきた。こんな風に不安に押しつぶされそうなときだって凌いで来たじゃないか。だから、大丈夫。
「…………」
 時計は2時を過ぎている。
「あいつら……もう寝たかな……?」

 調布市を一望できる丘の上。写生大会のときなどに訪れたこの場所に二体の
巨人が待機していた。
「うう寒いなぁ……」
 三月とはいえ夜の空気の中、かじかむ手をこすり合わせる。
 宗介からの要請でこっそり研究所から出撃した後、いつでも駆けつけられる
ようにここに潜んでいるように言われて、一時間交替で即応体制をとろうとし
ていたのだがこの寒さでは寝られそうも無い。
「あら、珍しいわねちゃんと甲児君が起きてるなんて」
「そりゃないぜ、さやかさん。って言っても、この寒さじゃ寝られないっての
が本音なんだけどな」
「まあ」
「けど、さやかさんの方こそ寝てなくていいのかい?あと三十分もすれば交替
だぜ」


 今は甲児の担当区分である。
「正直言うとあたしも寒さがちょっとね」
「何だ、それじゃあ始めからいっしょにいれば良かったぜ」
 ふっと何も言わない通信機を見る。
「このまま何も起こらないまま……またすぐかなめちゃんも戻ってくればいい
んだけどな」
「そうね……」

「ど……どういうことなんですか!」
 ネルガル横須賀ドック、そこの前で統夜は声を上げていた。
「ですから、支社長命令で今日一日は誰がなんと言ってもここから先は立ち入
り禁止なんです」
 警備兵との押し問答で統夜は足止めを食らっていた。
 この警備兵とも初対面ではない。月一でサイトロンリンクを行うために来て
いるのだが……。
「こんな時間ですが……また今度出直してきてもらうということで」
「今じゃなきゃ間に合わないんです!」
 そこでふと思い当たるのはクリスマスの事件。
 あの客船の船長は例の組織のメンバーだったらしい。そんな風に何処かの企
業にこっそりと、連中の根が伸びてきていれば……?
「……俺という戦力を削り取る気か」
「は?」
「いや、なんでもありません。出直してきますよ」
「はい。お気をつけて」
 くるりと踵を返す。諦めた訳ではない。支社長クラスの命令で待ったがかか
っているのなら……そう、旧ナデシコの面々と接触してアカツキへ一刻も早く
コンタクトを取り、ここを開けてもらわなければならない。
「おや、紫雲さんこんな所でどうしました?」
「プロスさん!」
 懐かしい顔に驚く。しかしこれは僥倖だ。上手くいけば大したタイムラグも
無く行けるかもしれない。
「えっと……どうしても、今、ラフトクランズが必要なんですけど……」
「何か、問題でもありましたか?」
「はい。現在支社長命令でここから先は今日一日立ち入り禁止となっておりま
して……」
 これには警備兵の方が応えた。
「支社長命令?ふぅむ……おかしいですなぁ。命令の内容そのものが」

「は……それは私も感じていますが……何分命令ですので」
「……わかりました。ここで紫雲さんに悪印象をもたれて、今後ネルガルに協
力していただけなくなっては我社の利益に反しますからな。私が会長代理とい
うことで許可しましょう」
「い、いいんですか!?」
 それは願ったりかなったりであるが……。
「何、かまいません。元々異質な命令なのですし会長のほうには私から後で許
可をいただいておけば彼が咎められることもありませんし、なんなら私に不意
打ちを受けたということにしていただいても結構ですので」
 びくっと一瞬身構える警備兵。
「ああ、本当にやるわけではありませんからご安心を。ブラフという奴ですな」
「そ、そうですか……」
「さて、参りましょうか」
 スタスタと統夜よりも先に奥へ進むプロスペクター。
「助かりました、プロスさん」
「いやいや、紫雲さんには色々とお世話になりましたし……何より死地を渡り
歩いた戦友ですからな」
 きらり、と眼鏡を光らせつつプロスペクター。
「そういえば、なんでこんなタイミングでここに?いえ、助かったからありが
たいんですけど……」
「いえいえ、それは企業秘密という奴でして……そういう紫雲さんこそどうな
さったので?」
「え……?」
 言われてみれば、そりゃおかしかろう。まだ夜も空けきらないこの時間、機
動兵器を欲するなどと……。
「まあいいでしょう。紫雲さんが無為な破壊に目覚めたとも思えませんし、あ
の部隊に居た方の行動がそういったものであるとも思えませんしね」
 最深部へと向かうロック。
「紫雲統夜。キーワード、フューリーが騎士エ=セルダ・シューン」
 声紋、指紋、虹彩、キーワード、全てが合致しハッチが開放される。そこに
佇む蒼の巨人。
「それでは紫雲さん、御武運を」
「ただ移動の足に使うかも知れませんよ?」
 半年振りに袖を通すパイロットスーツ。
「それは無いでしょう。今のあなたの顔は戦う者のそれですよ」
 まいいったな、と言う様に後頭部をかく。


 半年振りに乗るラフトのコクピットに三人の姿は無い。だが、この半年でサ
イトロンのリンケージ率は上昇している。俺一人でも問題は無い。
「ハッチ開放。いつでもどうぞ、紫雲さん」
 結局最後の発進まで付き合ってくれたプロスにラフトで頭を下げ、ネルガル
の地下ドックから蒼の騎士が空へ舞った。

 南半球の都市、シドニー。ペーパーカンパニー<アルギュロス>のオフィスで
ロス・イゴール将軍は黙々と仕事を行っていた。
「ボーダ提督がお付きになられました」
 部下からのそんな報告にも一つ頷くだけで再び眼前の書類とにらめっこをす
る。
 ミスリルの中で彼が中心になって作り上げた部隊、獣戦機隊は問題だらけな
がらも頑張っているようだった。
 エレベーターが開き、隻眼の男と中年の男性が入ってきた。
「これから忙しくなるぞ、大佐」
 一緒に入ってきたワグナー大佐にそう言葉を投げかけるボーダ提督へ敬礼を
向けると向こうも返してきた。
「イゴール将軍、どうかね?君の息子は」
「なかなかの親不幸っぷりをしめしてくれていますよ。連絡の一つもよこさな
い。それよりもアマルガムの件ですが」
「うむ。敵の指揮系統が、既存のものとは全く異なるからな。そうでなければ、
われわれがここまで後手に——」
 そこで、衝撃が走った。この指揮室の正面からのものでオペレーター達がふ
っとび反射的にボーダを庇うように動いたロス・イゴールの体もその衝撃に飲
み込まれていった。

 チンッとトースターからこんがり焼けたトーストが跳ね上がり、フライパン
の上で目玉焼きが心地いい音を奏でている。
「ね、見てみてカティア〜!十兵衛焼き〜」
 と、見せるフライパンの中には一方は潰され、一方はそのままの二連目玉焼
き。
「あなたね……」
 ふぅ、と呆れるため息をつく。
「なんだよ〜、そんな反応はないじゃん。そもそもあのアニメ見せてくれたの
カティアだし。……ところで統夜は?今日はやけに遅いけど」
「メルアが起こしに言ってるわ。ほんと、昨日は一番最初に寝たはずなんだけ
ど……」
「あああああ〜!」
 そのメルアの絶叫が聞こえてきた。
「な、何!?」


「メルア、どうしたっ!」
 フライパンを戻し、駆け出すテニア。カティアもそれに続く。
 声の出所であった統夜の部屋に駆け込むと一枚の紙を持ち、ぶるぶるとメル
アが震えている。
「か、カティアちゃん〜、テニアちゃん〜!」
 うるうると目を涙ぐませて震える手でその紙を差し出す。
「な、なに?」
 その紙を見ると
『あすの夕方までには戻る』
 …………
「統夜はっ!?」
 ばっとテニアが布団をめくるがそこには衣類の山。
「い、いなくなっちゃいましたぁ〜!」
 先程にも負けぬ悲鳴が近隣一体に響いた。



◇  ◇  ◇



105 :名無しさん@お腹いっぱい。 :2006/09/27(水) 11:10:41 VXyeufNV
ひとまずここまでで……皆様の反応が良ければ続けさせていただきまする。



106 :名無しさん@お腹いっぱい。 :2006/09/27(水) 11:16:17 lLT0yXNh
>>99_105
GJ!
実際にJの後日談としてもありえそうだ、
続けてください



107 :名無しさん@お腹いっぱい。 :2006/09/27(水) 12:10:12 v4yBxm4Z
イゴールとかボーダーとかって誰だっけ?と必死で調べている俺がいる
用はGJ!



108 :名無しさん@お腹いっぱい。 :2006/09/27(水) 14:32:57 9xDbpozD
ロス=イゴール:アランの親父のみならず獣戦機隊の親父。原作中、基地の白兵戦で死んじゃった。

ボーダー:ジェローム=ボーダー。ミスリル全てを統括する作戦本部の総責任者。実態はヤンキー親父。
     彼と彼の友人の奇行については『安心できない七つ道具?』の『老兵たちのフーガ』を参照のこと。

なにはともあれGJ! 貴官の続きを期待する。



109 :名無しさん@お腹いっぱい。 :2006/09/27(水) 16:25:52 hJ3FOMM5
>>VXyeufNV
GJ!!
『先輩』の出番に期待します
(統夜が居れば出番はないかな?)



110 :名無しさん@お腹いっぱい。 :2006/09/27(水) 17:03:31 ujXbwPE2
普通に面白いじゃないか
GJだよ


111 :名無しさん@お腹いっぱい。 :2006/09/27(水) 17:41:13 VXyeufNV
たくさんの感想、ありがとうございます。
というわけで第二部、参りまする。



◇  ◇  ◇


 そんな日本地区よりもはるか南方の孤島。ミスリル、トゥアハー・デ・ダナ
ン艦隊のベースであるメリダ島で警報にたたき起こされて消火活動に回され、
不機嫌の頂点に達していた藤原忍はずかずかと歩いていた。
「ったく、なんだってんだ!こっちは一仕事終わったばっかりだってのに!」
「言ったって始まらないさ、忍」
 こちらも煤だらけになりながら沙羅。
「敵が来ている。その不満は全部そちらにくれてやることだ」
「当たり前だっ!」
 盛大に声を上げるリーダーにやれやれと亮は首を振った。
 格納庫の片隅にASオペレーター達が固まっている。そこへ獣戦機隊も合流
する。
 SRT要員のトップ、ウルズ1ベルファンガン・クルーゾー大尉の主導で経
状況が説明される。
 第一波のミサイル攻撃で地上施設の大半が破壊されたこと。そして、あの巨
大ASベヘモスの改良機が3機こちらへ向かっていること。接触は40分後。
脱出路確保のためこれを迎撃すること。
「おいおい、待ってくれよ。その『巨人』は例のラムダ・ドライバを搭載して
るんだろう?そんな機体を、しかも三機も迎え撃つって——そりゃ無理だぜ」
「同感だね。勝算は有るのかい?」
 クルツの言に沙羅が同意する。
「獣戦機隊とも思えぬ言葉だな」
「あのな、俺たちは死んで来いって言われてはいそうですかって頷くようない
い子じゃねえんだよ、大尉さん!」


「それでも迎え撃たねばならんのだ、藤原少尉」
 クルーゾーは静かに言った。
「この基地はかなりの規模の爆撃にも耐えられるように設計されてはいるが、
それにも限界がある。ベヘモス三機に上陸されれば、いずれドックので整備中
のデ・ダナンも破壊されるだろう」
「でもよ——」
「唯一の脱出手段だぞ」
「ここは絶海の孤島だ。救援などないし、敵もわざわざ捕虜をとろうとは思わ
ないだろう。デ・ダナンが失われれば、戦隊の人間全てがこの穴蔵で心中する
しかなくなる。あのベヘモスを倒すほかに生き延びる方法はない」
 ふむ、と亮は考え込む。あのデカブツとはあの有明のときとDr.ヘルの人
工島を攻略したとき、さらに今から考えると何かしらの関係が在ったとも思え
る鉄鋼竜要塞攻略のときにもあの姿はあった。
 その全てのときに味方には何体もの特機とあの白いASの姿があった。
 その上での現状の戦力差までに考えを伸ばしたとき、沈黙を破ってSRTの
スペック伍長が言った。
「じゃあ、こういうのはどうだ?こんな無茶な負け戦に付き合うのなんて、や
めてよ。これからテキトーなライフル持って司令センターに行こうぜ」
「やめなさい、スペック」
 マオの静止を無視してしゃべり続ける。
「テッサとデ・ダナンを無傷で差し出すって条件なら、敵も乗ってくるだろう
な。やつらだって兵法のイロハくらい知ってるだろう。逃げ場をなくした敗軍
の抵抗ってのは……そりゃもう、すげえもんだ。相当の損害をしなきゃならな
い。ビジネスライクな話し合いで済むなら、向こうも喜ぶと思うぜ」
「それ以上ざれごとを口にしてみろ。敵前逃亡と反逆罪を適用するぞ」
 その眼光に静止以上のものをのせてクルーゾーが言った。
「雇われ兵になに言ってるんだ?作戦本部が吹っ飛んじまったんだぜ?俺らの
ギャラを、あんたが払ってくれるっていうのか?え、大尉さんよ」
「貴様……」
「部隊の仲間のために喜んで死ねってか?ハリウッドのバカな戦争映画じゃね
えんだぞ?そういう単細胞のヒーロー気取りが一番始末に負えねえ」
 そこで一瞬ちらりとその視線が忍のほうを向いたのに本人が気づく。
「言っとくが、俺は犬死はごめんだぜ」
「おいスペック。誰のこと言ってやがる」
 一歩、前へ進む忍。


「……何のことですかな、少尉殿?」
「しらばっくれてんじゃねぇ。単細胞とか抜かしたとききっちりこっちのほう
を向いてたじゃねえか!」
「へぇ、自覚はあるのか」
「スペック、てめえ!」
「忍、やめなって!」
 雅人が制止しようとするがそれを押しのけてスペックの胸倉を掴む忍。
「旗色が悪くなったからって、敵に味方を売るような玉無し野郎に単細胞扱い
されるいわれはねぇ!」
「だからヒーロー気取りだってんだよ、特機乗り!」
 負けじとこちらもその胸倉に掴みかかる。そこで新たな声が割って入る。
「わたしを売る。なかなかの名案ですね」
 PRT要員を二名従えて、格納庫入り口からテッサが入ってきていた。
「大佐殿……」
「そういう話も出ているだろうと思って、様子を見に来ました」
「聞いてたのかい」
「ええ。途中からですけど」
「悪く思わないでくれよ。こっちも商売だからな」
 スッと半歩だけ、亮は体をずらしてスペックがテッサに飛び掛っても即応で
きるように身構えた。
「そうですね」
 しかし、飄々とテッサは聞き流すように頷くとPRT要員にこう言った。
「拳銃を貸してください」
 彼は一瞬躊躇した後、言われた通りにスイス製のオートマチックを抜いてテ
ッサに手渡した。
「ありがとう」
 いつもと変わらぬ笑みで一つお礼を言った後、安全装置をはずしてハンマー
を引き上げる。その動作はスムーズで危なっかしいところはどこにもない。
「スペックさんの考えに傾いてる人もいると思います。ですが、許しません。
反逆を企てる者は、わたしがこの場で射殺します」
 スペックは阿呆のようにぽかんと口を開けていたがようやく頭が意味を咀嚼
したところで小さなため息をついて肩をすくめた。
「おいおい、無理するなよ。あんたはいい子だと思うが——」
 その足元に轟音と共に撃ち込まれた弾丸はそれだけでは飽き足らないのか跳
弾しはるか後方の壁にその身を埋めた。
「態度をわきまえなさい、伍長。もしかして、わたしがわざわざここまで足を
運んで、涙ながらに協力を訴えるとでも思っていましたか?けなげな善意を期
待して、同情混じりの忠誠を請うとでも思っていたのかしら?」


 二の句の告げないスペックに容赦なく畳み掛けていく。
「ここにいる以上は、あなたも『戦士の回廊』を歩む者でしょう。自分の意思
でこの窮地にやってきた。違いますか?」
「いや……」
「わたしを名ばかりのお姫さまだとでも思っていたの?」
「…………」
「言ってみなさい。わたしがだれか。その役職と階級を」
 いつも通りの柔らかい口調。いつもどおりの美しい顔にはしかしそれを上回
る迫力を帯びていた。
スペックは乾ききった喉で唾を飲むと口を開いた。
「……テレサ……テスタロッサ大佐。トゥアハー・デ・ダナン戦隊の総司令官
です」
「よろしい。では、さきほどの発言を撤回して謝罪しなさい。いますぐ」
「……撤回します。冗談が過ぎたようです。申し訳ありませんでした」
「けっこう」
 銃のハンマーの位置を戻して、テッサは銃を返した。
「あいにくですけど、敵はミスリルの存在そのものを地上から、いえ。地球圏
から消すつもりです。わたしたちが合理的なつもりの交渉を持ちかけても、効
果は無いでしょうね」
 違いあるまいと一人頷く亮。自分たちを生かしておいても得るものなどある
まい。不利になったからと寝返るような兵隊などどこも欲しがらないだろう。
「スペック伍長。隊はあなたの技能を必要としています。反逆を煽動した罪は
、みんなが生き残ったら帳消しにしてあげましょう」
 それだけ言うとテッサはくるりと踵を返した。
「…………生き残る?どこにそんな望みがあるってんだ……?」
「バカヤロウ!なけりゃ作るんだよ!俺たちの手で!」
「藤原少尉はよく理解しておいでのようですね。それとも野性の本能かしら?」
 にっこりと微笑みながらもう一度だけこちらを見る。
「もう一度わたしの報告書を読みなさい。頭を使って、工夫をしなさい。疑問
があるなら、わたしやレミングに助言を請いなさい。そんなこともできない木
偶の坊なの?」
 忍には縁遠い言葉だな、と雅人は思ったが空気を読む自負はあったので(自
負だけだが)口には出さずにおいた。
「どうも勘違いしているようですね。わたしは一度もあなたたちに『死ね』な
どと命令したことはありません。これまでも。そして——これからもです」
 あくまでも毅然たる態度の彼女にその場は静まり返り、スッと一同直立して
いきそれの最後の一人の雅人も直立の姿勢をとりながらぴゅうと口笛を鳴らし
た。


「テッサちゃん、かっこい〜!」
 茶化しでもなんでもなく、純粋な畏敬の言葉にテッサは素直に答えた。
「ありがとうございます。……生き延びなさい。命令です」
「イエス、マム!」
「幸運を」
 最後に微笑みながらそう言って彼女は去った。
 しんと静まり返った格納庫で、視線の集中を感じて観念したようにスペック
が口を開いた。
「あー、わかってる。わるかったよ、くそっ。イラついてただけだ。でもよ、
みんなちょっとは考えただろ?そんな目で見ねえでくれよ」
 スペックの言葉に大半が自嘲気味に嗤った。
 ケッ、どいつもこいつも……と忍はそっぽを向いたが、食って掛かろうとは
しなかった。
「……まったく、エンジェルといい彼女といいやられっぱなしだな。彼女の言
うとおりだ。悲壮な覚悟に浸るのはやめて、もう少し知恵を絞ろう。作戦の報
酬は己の命といったところか」
「妥当なギャラだ」
「ま、なんとかなるかもしれねえし……」
「あー、たまらん。嫁さんにしてえ」
 何て事を当のスペック自身が言うのだ。
「残念だったな」
 にやりと笑ってクルーゾーは言ってやった。
「彼女へのプロポーズは階級順だ」
 爆笑。
「さて……では対策会議の続きだ。この中でベヘモスと実際に戦って、一矢報
いた経験のある奴は誰だったかな?」
 自然、その視線は獣戦機隊とクルツに向いていき、そして獣戦機隊はクルツ
のほうを向いた。
「え……?俺?」

 街中の自然公園で起こった火災にカイザーとビューナスで降りてきたが、そ
こにはもう何も無かった。
「戦闘だったのは間違いないみたいだな……」
 爆発四散したらしい残骸はヘリのものだと見て取れたし、クリスマスの船上
でみた人間サイズASたちの残骸やその他戦闘員と見て取れる死体もあった。
「甲児君。この足跡は……」
 さやかに呼ばれて見てみるとカイザーやビューナスよりは小ぶりな、しかし
明らかに人よりは大きい足跡がとつとつと続いていた。


「ASのサイズよね、これ」
「ああ。きっとアーバレストだ」
 しかし、どうやらこの場から移動してしまったらしい。
「下手に探し出したら余計に危険になるかもしれないわね……」
「ああ。むしろ俺たちのほうで敵の注意をひきつけておこうぜ」

 朝のわずかな時間を利用し、調布市のあちこちで起きている破壊活動を報じ
るラジオに耳を傾けながら、じきにその位を退く陣代高校生徒会長林水敦信は
引継ぎのための書類を片付けていた。
 昨日の夕刻、部下の彼と交わした会話を思い起こしつつ、ため息をついた。
 憂慮。
 おおよそこの青年からは普段感じられぬそんな雰囲気が感じられた。
「林水会長っ!」
 そこへいささかの慌しさを伴って三人の少女が駆け込んできた。
「どうしたのかね?カティア君、テニア君、メルア君」
 先程までの表情は成りを潜め、いつもの生徒会長がそこに座っていた。
「統夜、知りませんか!?」
「行方、というのであれば今日はまだ彼は見ていないね」
 悠然とそう答える。
「じゃ、じゃあ、相良君は!?」
「……いや、彼も今日は見ていないな」
「そうですか……」
 見るからにしょぼんとする三名。
「どうかしたのかね?」
「今朝、気づいたら統夜の姿が見えなくって……」
「それで、思い出してみたら昨夜相良君から電話があったあと、誰かが出て行
った気がしたので……」
「相良さんと何か関係があると思ってそっちに連絡を取ろうとしても全然連絡
が取れないし、かなめさんもメールの返事が来ませんし……」
「…………」
 無言のまま林水はちらりとラジオに目をやった。……考えすぎなのだろうか?
行方の知れない宗介たちと、この事件……。



◇  ◇  ◇



118 :名無しさん@お腹いっぱい。 :2006/09/27(水) 17:54:48 6XL61XCO
どっかで読んだことあるなと思ったら「続くオンマイオウン」か
しかし、上手くJキャラが組み込まれてるな…良作だと思う



123 :名無しさん@お腹いっぱい。 :2006/09/28(木) 03:58:48 odPOfIr1
>>VXyeufNV
GJ!
期待してるからがんばってくれ



124 :名無しさん@お腹いっぱい。 :2006/09/28(木) 08:28:20 q5vzmm2y
>>VXyeufNV
こちらからも言わせて貰おう
GJだ



151 :96 :2006/10/02(月) 01:49:27 pmM7c/CH
え〜、多数のGJありがとうございました。おかげさまでようやく完成いたしました。

落としどころをいろいろ悩んだのですが、いかがなものでしょうか?
皆様のご感想など、頂けると幸いです。



◇  ◇  ◇


『忍、来たよ!』
 雅人の声に目を見開く。
 今回の作戦で三機のベヘモスはそれぞれA,B,Cと区別され、Aにはマオとクルーゾー、Cには獣戦機隊、Bにはクルツをリーダーとした残り全てのSRT要員が配されていて本命とされており、A,C対応班はB撃破までの間になるだけ時間を稼ぐように言われていた。
A,B対応班にはそれぞれ多数の無人兵器がつけられていたが、C班には獣戦機のみであった。
 これは根本的に運用方法が違うというのが第一理由で、獣戦機には元々他の無人機を運用するための装置が無かったのと、わずかな時間ではそれを取り付けるのが不可能だったこと、彼等自身が必要なしと判断したことがその理由だった。
 ダンクーガといえども、その火力でラムダ・ドライバを突破できる確証は無かったがそれでも獣戦機が分離すれば十分にかく乱は可能だろうと忍は考えていた。
 今回、メリダ島にダンクーガがいたのはあくまでも偶然である。本来四つの戦隊のいずれにも属さず、衛星軌道上のガンドールに待機している彼らは、東南アジア地区での任務後、機体の損傷が激しかったためこちらのほうへ緊急避難的に帰還したのだ。
 そのため、頼みであるガンドールとも別行動であり現在の最大火力は
『亮!断空砲フォーメーションだ!』
「行くぜ!」
 身構えた青の巨体に照準を合わせる。
『マキシマムレベル!シュート!』
 ダンクーガから放たれた光はラムダ・ドライバに一度阻まれ、それを貫き通し、ベヘモスが大きくよろめいて……それだけだった。
『ちっくしょう!なんて頑丈さだ、あの青達磨!』
 もしコダールだったならば、ラムダ・ドライバで削がれた威力でも殲滅するのに十分な出力だっただろうが、ベヘモスの装甲はそれほど柔ではないらしい。青い塗装ははげ、装甲にも亀裂が走っていたがまだまだ戦闘に問題はなさそうだ。
「忍、来るぞ!」
『各機分離散開!妖精の目を起動!注意力散漫になってたら遠慮なく弾丸をぶち込んでやれ!』
 獣戦機がばらけ、エネルギーを本体にまわして空になったブースターを砲弾が貫いた。
 これでもう、補給なしに断空砲は撃てない。
『こちらビースト1!ダンクーガの最大火力で迎撃するも敵の損傷は軽微!足止めに入る!』
 妖精の目はラムダ・ドライバの発動箇所を光学的に表現する機器で、これによって力場の効力の薄いところ=注意力散漫な箇所を判別することが出来るのだ。
 本来ならあえて注意力を薄くしていき、出来るだけ薄くしていったところに必殺の一撃を叩き込むのが正しいやり方なのだがそこが獣戦機隊の獣戦機隊たる所以で、注意力散漫になったところを叩かれればベヘモスの搭乗者はそちらに注意を引き、その分他が薄くなる。そこを叩けばまた他が薄くなる……と繰り返していく……人間なのだから四方八方に気を配っておくことなど出来るはずもなく、出来たとしてもそれを長時間続けるのは相当の精神力を消耗するものであり……つまり、忍たちは我慢比べをやろうというのだ。相手を精神的に疲労させていき、もはや集中力が持たなくなった時点で一斉攻撃を仕掛ける。
 初代ベヘモスの搭乗者タクマは薬物でもってそれを伸ばしていた。今回の搭乗者も同様の可能性があるが、それにしたところで無限ではない。
 四人がかりの根性勝負で負ける気などさらさらなかった。
『ウルズ2より各機へ!』
 そこで通信機からマオの声が響く。
『軽微ながらも、巨大ASに損傷を与えた!』
 たったの二人で、しかもダンクーガほどの火力もなしで、である。
『いけるわ。ただし気をつけて。敵の火力は圧倒的よ』
『聞いたか!?四人がかりのオレたちが、負けるわけにはいかねえぜ!』
『当たり前だろ?』
『見せてやろうじゃないの、俺たちの野生をさ!』
「俺たちで撃破することも、不可能ではあるまい」
 上空から急降下しつつ、ミサイルとバルカンの雨を降らせる。下方の注意が散漫になったところでビッグモスの巨砲が撃ち込まれる。微弱ながらも展開していたラムダ・ドライバに阻まれ、装甲に傷をつけるには至らない。
 苛立ったようにバルカンを撃ち込んでくるがビッグモスとて並みの重戦車ではない。バルカンごときはものともせずにパルスレーザーを撃ち込んでいく。
 実質的に言えばビッグモスとベヘモスの大きさに大した差はない。そもそも、ヒューマノイド形態ではその全高は頭一つ小さい程度なのだ。
 亮の方もこの巨体でマトモに避けようとは考えていないし最も警戒すべき物干し竿を取り回すには近い場所に陣取っていた。無理に撃とうとすれば、こちらには場所を変えるタイミングを取れるようにしている。
 クーガーとライガーはそのAS並みのサイズを生かして、この岩場の多い地形を移動していた。ベヘモスの40ミリバルカンでも十分破壊できる装甲でしかないが、まず捕らえきれない。そして上方から、おそらく本人は死んでも認めないだろうが注意をひきつけることを主目的とした忍のイーグルファイター。時たまヒューマノイドモードの滑空でライフルを撃ち込んではまたバルカンの射程外に退避するのを繰り返していた。
(いけるな)
 亮はそんな確信めいたものを抱いていた。が
『こちらパース1』
 カリーニンの声が聞こえる。
『いいニュースの直後だが、悪いニュースも伝えなければならない。敵の降下部隊が南東から接近中だ。多数のASと歩兵部隊だろう。敵はこの基地の地下を制圧するつもりだ。おそらく、十五分以内に白兵戦になる。それまでにベヘモスをできるだけ片付けなければならない。さもなければ——部隊は全滅だ。デ・ダナンも出航できないだろう。地下ドックから出たところで、狙い撃ちにされる』
『チッ、ちんたらやってる場合じゃねえってのか!』
 悪態をつく忍。
『そんな、無茶だよ!』
 半ば悲鳴の雅人。
『でも、どうしても、やらなきゃならないわけでしょ?』
『肯定だ』
 育ての子へと受け継がれた簡潔な言葉が響く。
『気楽に言ってくれるね』
 クーガーでライフルを撃ち込みつつ、沙羅もぼやく。
「どうする。ビッグモスだけでもそちらの足止めに回るか?」
『……いや、このまま攻撃を続ける!とっととこいつをぶちのめして、その後でそっちにも対応するぞ!』
『ちょっと忍、本気?』
『当たり前だ!』
 そこで一つ息を入れ、コクピット左のボタンに手をかける。
『やあってやるぜ!』

 既に三年生の通常授業は終了していて、本来成績の面から言っても林水が学校にいる理由は何もなかったが、彼の矜持から受験に向けての特別授業は受けていた。
 その最中、懐の携帯電話が震えた。
 教師の目を盗み、名前だけを確認する。……公衆電話だ。
 だが、この状況での公衆電話は……。
「先生」
 挙手して、教室を退出して手洗いで電話に応答する。
「はい」
『先輩。頼みがあります』
 正しく予期していた声にいくらか安堵し、またいくらか気を張った。
「トラブルかね」
『ええ』
「わかった。どうすればいい?」
 今、全力で彼に協力したいと思った。昨日告げたとおり、時が尽きたらしい。これが、おそらく最後となるだろう。
『1100時に全校生徒、および職員を二分以内に校舎から出してください。自分の過失を原因としていただいてかまいません』
 つまり、校舎を空にしろということか。
「まいったな。停学ものだ」
『必要なんです』
 切羽詰ったように思える声に、今言うべき台詞ではなかったかと眉をひそめる。
「いや、冗談だよ。喜んでやろう」
『助かります』
「構わんさ。ただ——」
 小さく、ため息をつく。先程感じたことを尋ねる。
「これでお別れということかな?」
『……おそらく』
「そうか。達者でな。……君との一〇ヶ月は楽しかったよ。本当に楽しかった」
『俺もです。楽しかった』
 世辞でもなんでもない、初めて会ったときからそれだけは変わらぬ素直な後輩の言葉が、この時だけは悲しい。
「彼女にもよろしく言っておいてくれ。出来る限り力になるとも」
『はい』
 言うだけ無駄なことも判っている。自分には彼らの世界で物事を為すだけの器量はない。ただ、この学校でのみかろうじて彼と盟友であれた。
「幸運を」
 その自分の無力さにいささか怒りを覚えながら、彼は友のため階上の放送室へと向かった。その道中の火災報知機を押す。これだけで十分説教ものだなと自嘲しつつ、頭の中でシナリオを整える。
「テスト、テスト。こちらは生徒会です」
 生徒会長としての最後の職務は、人命救助だ。仮に自分の直感どおり、彼が自分に助けを求めるほど切迫した状況で『向こう』の、戦場という世界が侵食してきているのなら、一年半前あの機動兵器が落ちてきた以上の惨事となる。
「つい先程、北校舎で重大な災害が発生いたしました。当生徒会の補佐官——えー、ご想像の通り、彼です——彼が持ち込んだ化学兵器が、不幸な事故により漏洩しました。これから一〇〇秒以内に校庭まで避難してください。すこしでも遅れると死にます。お急ぎを」

 四機の獣戦機がアグレッシブビーストモードでの戦闘を開始してから既に八分。時間が、無い。
『ちっくしょぉぉぉおおお!』
 雄たけびを上げて突っ込むイーグルファイターも虚しくラムダ・ドライバ突破には至らず、島の南半分は既に制圧下に置かれているし、基地内にも一部侵入を許している。
「く……」
 幸いというか何というか、四機とも四肢はどこも欠損していない。装甲にひびが入っていても戦闘には支障は無い。しかしそれだけではダメなのだ。ここだけで五分に渡り合えていても。
 ベヘモスB対応班は多数の犠牲を払って撃滅したというが、それでも大勢に影響は与え切れていない。
(ジリ貧だな)
 ギリ、と奥歯をかんだところで通信が響く。
『藤原、合体だ!』
 はっと空を見上げるとイーグルファイターより一回り大きい飛行メカがあった。
『アランか!』
『ガンドールも援護の準備は完了している。ファイナルダンクーガに合体して、一撃でケリをつけるぞ』
『よぉし、それなら!キーワード!D,A,N,C,O,U,G,A!ダンクーガ!やぁってやるぜ!』
 合体の間隙を突こうとするベヘモスは逆にアランのブラックウィングに後背を突かれ、その隙に合体を完了させ、さらに背中にブラックウィングが合体する。
『断空剣!』
 柄から生えた切っ先を天に掲げる。
『エネルギー充填120%、ガンドール砲発射!』
 断空剣にガンドール砲のエネルギーが蓄えられる。
「愛の心にて、悪しき空間を断つ!」
『名づけて、断空光牙剣!やぁってやるぜ!』
 ベヘモスが両手を前に押し出してまで防御に専念する。これまでの最大の強度でもって展開されたラムダ・ドライバはしかしあっさりと突破され、光の牙は青い巨体を両断した。

『ターボスマッシャーパーンチッ!』
 カイザーの腕が飛び、不用意に接近したASシャドゥの腹をぶち抜く。
 二人は現在宗介からの要請で対空用ECMを最大出力で発信しているため完全に無防備となっているアーバレストを守っていた。
 学校内部と、常盤恭子にくくりつけられた爆弾の遠隔操作をキャンセルするためである。
『くっそ〜、こいつら後から後から湧いて来やがる!』
 ASだけではない。人間の歩兵も無人のアーバレストにとっては十分脅威となりうる。が、いくらあの戦争中不本意とはいえ人を殺したことのある甲児たちとしてもこんな目に見える形での人殺しにいい気はしない。
『ルストトルネェェェド!』
 比較的殺傷力の低い攻撃で押し戻す。高いビルから落ちているものもいるから何名かは死んでいるかもしれないが。
 恭子を人質にするような連中に慈悲など無用だと考えても、そうそう割り切れるものではない。
『このぉ、だめだって言ってるでしょ!』
 ビューナスの手がランチャーを構えた歩兵から武器を奪い取り、足元に光子力ビームを撃ち込む。
『警告。六時方向より敵対機接近。サベージ、1』
 アーバレストの外部スピーカーが告げる。
『くそっ!さやかさん!』
『ダメ、間に合わないわ!』
 後方から接近してきたサベージがヒートハンマーを振りかざしたところで、
「オルゴンソード、ファイナルモード!」
 虚空から現れた蒼騎士がサベージを二分していた。
「済まない、遅れた!」
『統夜!この野郎、どこほっつき歩いてやがった!』
「横須賀から出た直後に、こっちを目指してると思われるベヘモス・タイプのASがいたから足止めしてたんだ!」
 また一機のシャドゥを袈裟切りにする。
『ベヘモス!あいつらそんなものまで持ち込んでるの?』
「日本にあるスーパーロボット研究所の数を考えたらありえない話じゃないさ。実際そっちのほうは超電磁チームに任せてきたからね」
 ベヘモスは例えたどり着かないまでも注意を逸らす役割を担っていたのかもしれない。
「ところで、なんでアーバレストが動かないんだ?それに、確かこっちには来ないだろうって……」
『テッサちゃんが気を利かせてくれたんだとさ。実際、相良しか動かせないんだからこっちにこっちに回したほうがいいんだろ』
『それで、今は学校に仕掛けられた爆弾の遠隔操作をさせないために電波妨害に全出力を入れてるから動けないのよ』
『ECM作動中。あと三〇秒』
「爆弾!?」
『しかも恭子ちゃんを人質にしてやがったんだ。他の生徒は林水先輩が校舎から出してくれたから、今相良は恭子ちゃんの救出に行ってる……ファイヤァァァブラスタァァァッ!』
 飛び掛ってきた一機を迎撃する。
『ECM停止。本機はこれよりファイルX−2の特別司令に基づき、緊急避難モードを起動。回避行動を開始します』
 アーバレストのAI、アルの言葉と共に立ち上がるアーバレスト。跳躍し、近隣のビルに着地する。
「ジャミングが止んだ!」
 学校の方面を望遠する。……爆炎は、無い。
『やったぜ!』
 喝采を上げる甲児。
「いや、まだだ!敵はやる気だぞ!」
 未だに戦意は止まず、アーバレストを追う敵機を統夜はシューティングサイトに重ねた。

 メリダ島。
 基地司令部を放棄してテッサを先に逃がし、その他の人員も彼女についていかせた。
 ASを扱えない以外は十分な実力を持ったSRT要員ウルズ9ヤン・ジュンギュ伍長も付いていったようだ。
 アンドレイ・セルゲイビッチ・カリーニン少佐はたった一人、通路に居た。
 自らの選択が正しかったのか過ちであったのかはわからない。
 だが、あの銀髪の少年に賭けてみたくなったのもまた事実だ。
「アンドレイ・カリーニンだな?」
 アマルガム側の部隊長と思われる男がそう尋ねてきた。
「そうだ」
 マシンガンを捨て、カリーニンは応じた。

 大挙して日本地区に押し寄せたAS部隊にラストガーディアンからも秋津マサト達が迎撃に出ていた。
(こいつらの軍勢……)
 あのガウルンの扱っていた連中と同種のものだ。そう、アマルガムの部隊だ。
 木原マサキの知識にはその名が刻まれていた。否、元々マサキはあの組織の創設者の一人だった。が、自らの冥王計画の実現には遠いと見たマサキはアマルガムを離れ、鉄甲龍を同じくアマルガムを抜けたルラーンと共に作り上げたのだ。ただ、あの戦役の最中現れた軍勢を見た時、アマルガムは鉄甲龍に吸収されたものと思っていたのだが……。
『AS部隊沈黙。任務完了よマサトくん』
「いや、まだだ。これは陽動に過ぎない」
『え?』
「敵の本命は……多分あそこだ」

 半ば廃墟となった街。学校の校庭、生徒たちの固まっているのと反対側に四機のロボットが居た。
 そちらも、行動にこそ支障はなさそうだったが装甲のあちこちにひびが入りひどい有様だった。
「……ボロボロだな」
 サイトロン粒子の物質化による機体修復を開始しつつ苦虫を噛み潰した顔で統夜は呻いた。三人が無事に避難してくれているといいが……。
『三人とも……こんな事に巻き込んでしまって……済まなかった』
『だから、気にすんなって』
『そうよ。学校のみんなも守れたじゃない。十分よ』
「宗介……千鳥さんと行くのか」
 統夜が直球に尋ねる。
『ああ……ひょっとしたらもう地上の、地球圏のどこにも安全な場所は無いんだろうが……逃げるしかない。俺はそうすることしか知らないんだ』
『私達の研究所に来れば……お父様も事情を説明すれば守ってくださるわ!』
『そうだ。何度敵が来ようと俺たちで蹴散らしてやるぜ!』
『ダメなんだ。それではダメなんだ!』
 宗介らしくも無く、叫ぶ。
『それでは君たちに迷惑がかかってしまう。最悪政府そのものを敵に回すことになりかねないんだ!お前たちなら、そんなことを気にしないでくれるかもしれない。だが、もう千鳥が限界なんだ!自分のために、他に迷惑がかかることを耐え切れないんだ!』
『け、けどよ……』
「!」
 そこで統夜の脳裏に閃く。
「待て、話は後だ。何か、来る!」
 それを裏付けるようにアーバレストのレーダーも捉える。
『大型輸送機が接近中。方位一八七。距離二〇。一機。速度五〇〇。高度一〇〇〇から降下中』
 アラーム音と共にアルが伝える。
『機種、C−17。敵味方識別、無し』
『この状況だ。間違いなく敵だぜ』
「だからって撃墜するわけにもいかない。ここで落とせば街に突っ込む」
 一気に高度を下げてきていて地上高三〇〇mあたりを通過していった。
『何だありゃあ?』
「いや、ASが降りたんだ!ECSを展開してるだけで、近くにいるぞ!」
 ばっとラフトクランズを上昇させ、サイトロンでスキャンをかける。校舎のほうにASが使ったと思われるパラシュートが落ちた。
(どこに……いる?)
 宗介も甲児も、さやかも油断無く辺りを見回すが、見えない敵が見えるようになるわけでもない。
 手を出しあぐねている中、アーバレストがバッと身を翻し、ボクサー散弾砲を撃ち放った。
 改めてそちらに目を向けると、いた。
 白銀の鋭角的な装甲に左右非対称の角を持った頭部。ラフトのバックパックにも似た肩のパーツは、まさか単独で飛行能力を持ったASだと言うのか?
「違う形だけど……こいつも持ってるな」
 ラムダ・ドライバを。でなければ素手でASが来るはずがあるまい。
『さて——相良宗介くん』
 腰に手を当てつつ、外部音声でその声が響いた。人を食ったようなしゃべり方だ。
「……ばらす気か」
 宗介の素性を学校のみんなに。
『——僕はそこの人々を人質にするつもりはない。その意味さえ感じていない。でも、あえて言っておくよ。これが最後の警告だと。諦めて彼女を渡す気はないかな?』
『てめえ、好き勝手言ってるんじゃないぜ!』
 カイザーがその胸部からファイナルブレードを抜き放って構える。
『答えならわかっているだろう』
 宗介も、外部音声で応えた。
『まあ、そうだろうね……でもさ。そういう物分りの悪さ……もしかして格好いいとでも思ってるの?』
『何の話だ』
『ちょっとね。そういうの、嫌いなんだよ』
 白銀のASの翼——やはり翼だった——が展開し、機体を浮遊させた。
 そして次の瞬間、猛烈な力でアーバレストは吹き飛ばされた。
『相良くん!』
『てめえ!やりやがったな!』
 吹き飛んだアーバレストのサポートにビューナスが回り、カイザーが切りかかった。
『てぇりゃあああ!』
「よせ、甲児!」
 が、統夜の制止も遅い。
 白銀のASのラムダ・ドライバに阻まれる。
『マジンカイザー……中々強力な機体のようだけど……ガウルンの乗った初期型にさえパワー負けしてたのに。「完全領域」と自由に交感してラムダ・ドライバの力を全て引き出せる僕に勝てるわけ無いだろう?』
『な、何!?』
 ラムダ・ドライバの力場に囚われて宙に浮き、その手の所作だけでマジンカイザーが錐揉みしながら飛んでいった。
『甲児くーん!』
 一瞬さやかがそちらに気をとられたとき、接近してきた白銀のASのラムダ・ドライバで上乗せされた手刀で逆袈裟に切り払われ、中破した。
『きゃああああああ!』
 身もだえするビューナスにはもう目もくれず、空を見上げた。
『それで?フューリーの騎士さんはどうするんだい?』
 見上げたそこに蒼い機体は無い。
 その後背で、オルゴン・クラウドを乗せたオルゴンソードとラムダ・ドライバが衝突していた。
「く……そ!」
『惜しかったね……こんな街中でなければ最大の攻撃力で挑めたんだろうけど。……力不足だよ』
 翻った左手がラフトクランズに力場をたたきつけた。
「ぐうぅうううう!」
 後ろにいる生徒たちの事もある、跳躍するわけにもいかず、オルゴン・クラウドを全開にして後ずさるだけで凌ぎきる。生徒たちには……大丈夫。そっちには突っ込んでいない。
「はっ……は!」
 この間に体勢を立て直したアーバレストが、完全に後ろを向いている敵ASにボクサーを向けた。背中の放熱板が伸びる。やった。アーバレストもラムダ・ドライバを駆動した。これで……
『見苦しいよ』
 それだけ言い、白銀のASの手刀がボクサーを持った腕ごと振り向きざまに切り裂く。
 それでも怯まず、頭部のチェーンガンを放つ。
 が、ラムダ・ドライバを乗せた最後の反撃も当たり前のように白銀のASの前には無力で、今度は頭を潰され、右膝が反対に曲がり、左足は大腿部から欠損し……
「宗介えぇっ!」
 シールドを展開して爪を開き、背後からその白い翼を狙うが、届かない。阻まれる。
 その間にもアーバレストの胸部、コクピット辺りを踏みつけ胸部装甲を引き剥がした。
「ああああああ!」
 絶叫した。友の命が目の前で尽きようとしていて。
『五月蝿い……!』
 半ばイラついたように声が響き、今度こそラフトクランズも吹き飛ばされ、宙を舞った。
 それを見届け、再びスクラップとなりかけているアーバレストに目をやり、半壊状態のオペレート席にいる男に、銃弾を打ち込まれた。
「…………っ!」
 不快だ。こいつも、さっきのドンキホーテもあの特機乗りも。それで彼らが屈服するわけでは無いことはわかっていたが、見ているだけで吐き気がした。
 もう一発、宗介のグロックが火を噴き、ラムダ・ドライバで後も残らず消し去ろうとしたところで、異変が起きた。
『警告。敵対機出現』
 アーバレストのさらに向こう側、禍々しい機体がそこにあった。
「遅かったか……」
 出現した特機、グレートゼオライマーのコクピットでマサトは呻いた。
『なんてこと……』
『ゼオライマー……木原マサキさんですね』
 宗介からそちらに眼を向ける白銀のAS。
「レナード・テスタロッサ……だったか」
『よく覚えていますよ。まだ僕は二歳だった。でも、あなたとの共振が無ければ僕の人生はもっと別のものになっていただろうから。それだけ印象的だった』
 うっとりとそれこそ懐かしむようにレナードの声が響く。
「アマルガムが動いてるだろうとは思った……けど、何で君がそこにいる?」
『僕の目的のためにはその方が都合が良かったんですよ。あなたの作り上げたこの民主的な組織の方がね』
「…………」
『まぁ、面白みが無くなっただけじゃなく、ウィスパードとしての力すら失った秋津マサトに興味は無いからね。お説教は聞かないよ』
 その手が再び宗介に向けられる。
「悪いが、彼は僕の恩人の想い人だ。殺させるわけにはいかない!」
 グレートゼオライマーが両手を構える。
『確かに次元連結システムならラムダ・ドライバなんか無いも同然だろうけど……でも、ここで冥王の力を開放すればどうなるだろうね?』
 白銀のASの向こう側、未だに避難しきれていない学校の生徒たちの姿が見えた。
「く……」
 外部音声出力を切る。
「美久、次元連結砲だ。出力を抑えて、ピンポイントでコクピットのレナードに直撃させる!」
『そんな、無茶よ!』
「他に手が無い!」
 スッと右手を上げるゼオライマー。
 おもわず身構える。まさか、本気でやるつもりか?秋津マサトはそんな人間ではないと聞いていたが……木原マサキならば、ためらわず攻撃するだろう。
「これで!……!?」
 入れていたレバーを引き戻す。長い黒髪の少女が間に入った。
『もうやめて……』
「千鳥さん!?」
 半壊したコクピットから這い出た宗介も、彼女を見た。
『おわりにして。ついていくから』
『だれにかな?』
『————あなたに』
 ASの頭部が宗介のほうに向く。
『聞こえたね、相良宗介くん』
 乗れといっているのか跪きながら、右手を差し出した。
『千鳥……やめろ……』
 呻きながらかなめの方へ一歩寄るが、彼女はASの手に乗る。
『もういいの』
『よくない……』
『あたしは大丈夫だから。あなたも……』
『絶対に……連れ戻す……この場所に……連れ戻す……』
《……普通に暮らしてたってね……》
 あの戦いの最中、かけられた言葉が内に蘇る。
《普通に暮らしてたってね、死にたくなるようなことはいくらでもあるのよ!》
 その上で、彼女があそこに向かったのなら。
(ああ……そうか)
 もう、心が、折れているのだ。彼女は。
 ゆっくりと上昇していく白銀のAS。
『追いましょう、マサトくん!』
 美久の言うとおりに、機体を上昇させていくが、なんとなく、わかっていた。
(多分、無駄だよ)
 今の彼女では、助け出しても迷惑するだけだろう。自分のせいで他人が傷ついてしまうことを許容できないやさしい人だから。
 だったら、狙われるのが自分だったら、始めから連中の方に行けば、大切な人は傷つかないから……。
(でも、千鳥さん。大切な人は、自分と関わりが有るからこそ大切な人なんだよ?)

 一機の特機と戦闘機、二機の第三世代型AS,超高高度からの移動要塞によるビーム攻撃。
『亮、鉄拳を食らわせてやれ!』
 しかし、数の差はいかんともし難く、じわりじわりと防衛線は後退して行き、必然的に最も狙われたくない場所を敵に教える結果となっていた。
「はあああああ!」
 ダンクーガの鉄拳が正面のASを粉砕した。第三世代型であろうとラムダ・ドライバの無いASが特機に対しては力不足も甚だしい。
『おまえら、そんなのはいいからあのデカブツを何とかしろってんだ!』
 メリダ島の崖先、クルツが40mmをバラ撒きつつ悪態をつく。
『うるせーっ!だったら細々したものこっちに寄越すんじゃねえ!』
「忍、くるぞ!」
 既に長大な大砲は無力化され、ミサイルも撃ちつくし、残るは頭部の機関砲とその巨体だ。デ・ダナンの発進口前で二つの巨体が力士よろしく組み合う。
 既に精神的に消耗が頂点に来つつあるのかラムダ・ドライバはその重量を支えるだけで障壁としての機能はほぼ失っていた。
『全砲門開け!零距離でぶち込んでやる!』
 パルスレーザー砲、ビームランチャー、連装キャノン砲を始めとしたダンクーガの火力が青い装甲に吸い込まれていく。
『忍!ダナンが動くよっ!』
『ちっ!引くぞ!』
 膝蹴りを一発かましてひるんだところで一気に距離をとった。そこへダナンから発射された六発のADCAP魚雷が全弾命中した。
『他の機はいい!ベヘモスに火力を集中しろ!』
 ここが正念場と見たクルーゾーの掛け声の下、ファルケとクルツのガーンズバックの40mmとブラックウィングのビーム砲、ダンクーガのダイガンが集中して浴びせられる。
 もはやまともに防御行動も行えていない。バランスも崩し勝った、と確信したところでドックから漫然と飛び出したダナンがベヘモスにぶちかましをかけた。
 それを解っていたのか、開いている上部甲板に降り立つM9とファルケ。
『獣戦機隊の皆さん、援護ありがとうございました』
『お、おう……』
 さしもの忍も度肝を抜かれていた。ちなみにあの最後のベヘモスはダナン体当たりの衝撃でバラバラになっていた。
「ふ……流石はダナンを駆る女(ヒト)だ。とんでもない女傑だな」
『藤原』
 ビーム砲で戦闘ヘリを落としながらブラックウィングが接近してきた。
『周辺の敵機は一掃した。この隙にガンドールへ撤退する』
 ファイナルダンクーガとなって一気に上昇をかける。
「さらばだ、七つの海をかける女神……願わくば、再び会わんことを」
 ビックモス部分のハッチを開け、亮は手にしていたバラを中空に投げた。

 激しい頭痛の中、意識が覚醒していく。
「あ……く……」
 目を開くと、泣きそうな顔でのぞき込む三人。
「っ統夜!」
 目が覚めた事を見て取り、抱きつくテニア。
「よ、よかった……」
 ぼろぼろと涙を流すメルア。
「お前ら……」
「もう少し待っててくださいね。ネルガルの救護チームがここに向かっていますから」
 起きあがろうとしたのをカティアに押さえられた。
「俺……一体……」
「あの銀色のロボットに吹き飛ばされてさ……あたし達、ほんと心配したんだからね!」
「そっか……俺……」
 銀色の……AS……。
「っ!あのASは!宗介の奴は!」
 一気に意識が覚醒する。抱きついているテニアやカティアの制止を振り切るように上半身も起こす。
「あのアームスレイブは……カ、カナメさんを……連れて行っちゃいましたぁ……」
 先程とはまた別の理由から涙を流すメルア。
「…………」
 言葉もなく、再びシートに倒れ込む。
「相良君も……行方が知れないわ。かなめさんが自分の身と引き替えに彼の安全を要求してたから生きているとは思うけど……」
「なんて……こった……」
 そこで自分の体に血が付いていることに気づいた。それをたどっていって頭に傷があるのだとわかった。そういえば体が冷えている割に顔が妙に生暖かい。
「……甲児やさやかは?」
「統夜よりは軽傷だよ」
「そうか……」
 最強の傭兵と魔神皇帝と騎士とが……まるで子供扱いだった……。
 言いようのない虚脱感に統夜は覆われていた。

 あれから五日後。
 二年前……体感的には一年半程度だが、ともかく自らの運命と出会った校庭に統夜は立っていた。
 頭に巻いた包帯をそっと撫でながら2−4を見る。珍しく無事な窓の向こうでさっきなにやら騒がしくなり、そして今は落ち着きを取り戻している……直に彼が来るだろう。
 校舎の方から歩いてきた宗介を正面から見据える。
「紫雲……いろいろと、助けられた。ありがとう……」
 直に顔を合わせるのが六日ぶりの友人はそれだけ言うと統夜の横を通り過ぎようとした。
「待てよ」
 その手をつかむ。
「行くんだろ、千鳥さんを追って」
「そうだ」
「だったら手伝わせろ。責任は俺にだってある」
「無理だ。お前の腕は知っているが、ロボットが扱えればいいというものでもない」
「だが、お前の兵隊の技能を駆使しても彼女の行方をつかむのは至難の業だ。……違うか?」
 宗介は答えず、統夜の手を振り払おうとする。
「……お前には何も責任はない。これまで通り、普通の生活を続ければいい。それも戦いだ」
「そうもいかないんだよ……」
 振り払うに任せて、統夜は宗介の背中に言う。
「あの三人も千鳥さんと同じだ。地球人でありながらサイトロンを扱えるようにされてる三人は狙われる可能性がある」
 そこでハッと振り返る。
「あの三人にも、今まで言ってなかったけど実はミスリルからガード役の人も来てもらってたし、実際今までに二回。お世話になってる」
「…………」
「まぁ……もう連絡も付けられなくなってるけど……」
 再び正面から向き合う。
「……アカツキ会長がナデシコBの就航を巻き上げてくれたから、それに乗り込めるようにしてもらった。半年にもならない平和な時間で、あいつらにも申し訳ないけど先に行かせてある。……だから、宗介。お前も来い。その中で千鳥さんも探せばいい」
「……ネルガルは信用ならない。万が一、千鳥を助け出せてもあいつらがウィスパードのことを知れば……」
「アカツキ会長の間は大丈夫だよ。あの人は、商売第一のような顔をしていて、その実旧ナデシコクルーで一番人間的だからね」
「だが……」
「そんなに気になるんなら彼女を助けた後、艦を降りて人目のないところに行けばいい。どうせそのつもりなんだろう」
「…………」
 じっと考え込む宗介。
「それに、ナデシコの最初の目的地は南の島だ。……五日前、ここの襲撃に合わせて戦闘光が確認された、地図に載ってない島の調査に行くそうだ」
「!」
 その意味するところを察して顔を上げる。
「消息が解らないだけなんだから、まだ希望はあるだろ。なにか手がかりもあるかも知れない」
「…………」
「な、宗介。また俺たちが力合わせれば、千鳥さんだって助け出せるさ」

「と、いうわけでぇー」
 ナデシコBブリッジ。
 艦長の定位置に付いているのはテンカワ・ユリカではなく、ホシノ・ルリでもなく、ネルガル会長アカツキ・ナガレその人だった。
「僕がこの度、ナデシコB艦長となったアカツキ・ナガレだ」
「なんでだ」
 とりあえずストレートにつっこむ統夜。
「何でって……君はテンカワ婦人をここに引っ張って来いって言うのか?」
「なんで会長のあんたがここにいるんだって聞いてるんだ」
「それだけ今回の事は重要な事態だってことさ。考えてもみたまえ。ミスリルの押さえてくれていた連中は巨大な軍需産業らしきフシがある。エステバリスの有用性にようやく軍のお偉いさん方が気づいてくれて、ミスリルと関係があったっぽいジオトロンもごたごたしてる。ここでアマルガムを押さえ切れれば、エステを軍の主力機として売り込むことも夢じゃあなくなるって寸法さ」
「強がるなよ、アカツキ。相良達の学校が襲撃されたと聞いて一番焦っていたのはお前だろう?」
 ネルガル兵器開発部所属となっていたダイゴウジ・ガイがにやりと笑いながら言う。
「……君たちに善人扱いされるのは心外だと、前にも言ったろう?」
「照れるなよ。そんなあんただから俺たちも頼れるんだ」
「……まぁいい。どっちみち僕はお飾りに過ぎないよ。実務はホシノ君に一任するし、戦闘になれば僕もエステででるしね」
「……それでもエステが二機にラフトクランズとあり合わせからくみ上げたM9しか無いじゃない」
 ぼそりとオペレーター席のルリがツッコミを入れる。そんなルリを体よく無視し、アカツキは指を向ける。
「ナデシコB、発進!目標、旧ミスリル西太平洋艦隊トゥアハー・デ・ダナンベースキャンプ、メリダ島!」
「了解。オモイカネ、サポートお願いね」
『了解!』
 必要最低限の人員構成での出港だった。かつての仲間の十分の一も集まらず、それでもそこに絶望はない。
「無事だと……せめてテスタロッサさん達が生きてるって手がかりが、あればいいな」
「ああ……そう、だな」
 キュ、と握り拳を作る。目に映るのは、直接二度見た銀髪の少年。
「紫雲」
「なんだ?」
「俺たちは、勝てるな?」
「……勝つさ」
 一つ大きくうなずく。
「テスタロッサさん達も見つけ出して、またみんなの力を合わせて、何度も地球を救った俺たちの手で、今度は千鳥さんを助け出そう」
 統夜の言葉に頷き、相良宗介はブリッジから青い空を見上げた。
 ここに来ることを決める前は、カシムに自分を戻そうかとも思っていた。あの戦闘マシーンでなければ彼女は救えないと思った。
 だが、彼らの助けがあれば大丈夫だ。アルを失っても、相良宗介のままでも、千鳥かなめを助け出すのに不都合はない。そう——
「問題ない(ノープロブレム)」
 だ。



◇  ◇  ◇



152 :名無しさん@お腹いっぱい。 :2006/10/02(月) 05:11:10 brYF6URv
>>151
とりあえず、これだけの長さのSS、GJです。


153 :名無しさん@お腹いっぱい。 :2006/10/02(月) 16:08:42 Fz+4cvnd
>>151乙
携帯からは読めないので、職場のパソでプリントしたよ
A4で12Pも在るとは思わんかった(^^;)

感想は後程

投稿者 ko-he : 2007年06月10日 23:44 : スレ内ネタ:SS

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コメント

あなたが神か?
Jキャラがうまくなじんでてすごくいいです。

投稿者 Dさん : 2007年06月10日 16:40

GJ!

第二次Jが出たらそのまま冒頭につかえそうだ。
まあ踊るVMC以降がアニメ化されるかどうかだが

投稿者 Anonymous : 2007年06月10日 21:30

VMCやOMOは長さとスピーディーさから劇場版が適当だと思う俺、惨状。

投稿者 Anonymous : 2007年06月10日 21:51

コメントしてください




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