2007年06月05日
 ■  qWE+kSJn氏作SS「白金の闇騎士」&「異界の闇騎士」

ラミア・アクセルvsジョッシュ・ラキ
http://game11.2ch.net/test/read.cgi/gamerobo/1153754185/l50


623 :D萌スレPart7->>895 :2006/10/16(月) 23:36:23 qWE+kSJn
リクエストされたラミアとアクセルの方のSS、ここに貼ってもいいかな……?



624 :それも名無しだ :2006/10/16(月) 23:45:13 i9qJKoMw
>>623
いいんじゃないかな、ここはラミアとアクセルも範疇だから



625 :D萌スレPart7->>895 :2006/10/16(月) 23:51:27 qWE+kSJn
では……
ラミアの口調とアクセルのアホっぷりが上手く再現できてるか些か不安ですが、ひとまずキス1。



◇  ◇  ◇


「ラーミ~アちゃんっ」
 妙なイントネーションで呼び止められ、ラミア・ラヴレスが振り返ると、目下記憶喪失
中の元上司が駆け寄ってきていた。
「なんでございますでしょう?」
「いや、特に用って訳でもないけどさ、ただそっちも待機中でしょ?一緒にいたいな~と
思って」

 記憶を失って再び彼女の目の前に現れたアクセル・アルマー。
 彼の話によると、いろいろと回っていたらしい。
 まず目覚めたのはオーストラリアで、エルアインスの中で傷だらけになっていたらしい。
そこをカリオンのスレイ・プレスティに拾われて、しばらく行動を共にした後、彼女が兄
の今際の際に立ち会うために訪れたテスラ研で、ベガリオンに乗り換えた彼女に置いてい
かれたりしていた。
 そのテスラ研では直接に面識が無かったため誰もが瞬時に思い出せず、アクセルという
名を思い出した者もあまりにも違いすぎるその印象に同じ名前の別人だろうと考えてしま
っていた。
 その後テスラ研でテストパイロットをやっていたが、今度は艦隊を率いて再び現れたエ
アロゲイターに対抗するためかつてのハガネ・ヒリュウ隊のように戦力を集結することに
なったスペース・ノア級五番艦に出向した際、同乗していたイルムガルド・カザハラ中尉
が当人なのではないかと危惧。その判断のために教導隊からラミアも出向させられ、彼の
見聞を行っていた。
「やっぱり、あいつか?」
「はい……こちらの世界のアクセル隊長であることもあり得まするが、そうなるとなんと
も……」
 艦長室にて、ラミアとイルムと、艦長のアーウィン・ドースティンがいた。
「だが、君の話では彼はオーストラリアに居たという。ホワイトスターが変貌したアイン
ストの一番大きい破片が落着したのもあの地だ。スレイ・プレスティとやらの証言も欲し
いが、状況証拠からすると間違いなく当人だろう」
「ですが、あの隊長は間違いなく記憶喪失なのですわ。それは疑いない」
「だから、なんだ」
 眼鏡を外し、アーウィンの肉眼がラミアを捉える。
「先の戦争中もキョウスケ・ナンブ中尉を、任務ではなく私怨でもってしつこくつけ回し
たという。記憶が戻れば同様のことになるのは目に見えているだろう」
「それは……」
「彼には艦を降りてもらって、しかるべき場所で監視付きで療養してもらうのが筋だろう」
「…………」
 そのことは、よくわかっている。それが一番確かなのだとも、だが……。
「まぁまぁ、お前の正論もよくわかるけどな」
 ぱんぱんと手をたたき、イルムがデスクのうえに手を乗せる。
「アクセルは軍属って訳じゃないんだぜ、そもそも俺たちに強要なんて出来ないよ」
「イルム、お前な……」
「それに元を正せばラミアだってシャドウミラーなんだ」
「それは知っている。だが、だからといって同列に出来るか」
 階級的には三つも差のある二人だが、オフィシャルの場でなければその交わす言葉は士
官学校時代と変わりない。どこぞのナンバー1(故人)と童顔艦長とは大違いだ。
 閑話。
 巡洋艦などでは副長のことをナンバー1と呼ぶ。
 閑話休題。
 そこでラミアが話し始める。
「私は、かつてのハガネ・ヒリュウ隊のメンバーと出会うまではただの人形でしたです。
ですが、あなた達との出会いによって私は人間になれた。……だから、今の記憶喪失の隊
長も変わることが出来ちゃったりすると、私は思っておられます」
 それをじっと見つめていた二人だが、先に動いたのはイルムだった。
「よし!それじゃあラミア。あいつの記憶が戻っても、仲間でいられるようにあいつを変
えて見せろ」
「おい、何を勝手に……」
「はい、変えてみせますでございます」
「…………」
 一人、しばらく頭を抱えていたアーウィンはようやく決を下した。
「わかったよ。“公然と”あいつの保護観察を任せる、ラミア少尉。……これでいいんだ
ろう」
「はい。任務、了解しましてございます……!」
 一礼して、艦長室を退出するラミア。
「はぁ……甘くなったんじゃないか、イルム」
「いやいや、どうにもリュウセイやらマサキやらの影響かな?」
「こういう時の冷徹さでは俺やリンでも敵わなかったお前がな……」
「よしてくれよ、そんな言い方。俺がまるで冷血漢みたいじゃないの」
「……よく言えるな、その口で。まあいい。これをミーナに渡して来い」
 ピラリと一枚の命令書を渡す。
「なんだ?……アクセルの監視任務を解く?ミーナだったのか、今まで」
「アクセル自身が言い出したんだ」
『やっぱ、俺みたいな身元不詳がぶらぶらしちゃいけませんよね~。監視でも何でも付け
てくれてかまいませんよ。あ、でも出来れば可愛い女の子がいいな~』
「……で、その場にいたミーナが立候補したわけだ」
「女の子?」
 眉をひそめるイルム。
「同じ事をアクセルも言って、グレースやパットも含めてあいつを締め上げてたな」
 みんな同い年である。
「ともかく、自由時間もそっちのけでアクセルを嗅ぎ回っていて、ジェスの奴が構っても
らえずますます自室の盆栽にのめり込むというあまりにも不健全な状況になっていたから
な……」
「苦労してんだね~」
 同情するような顔を向ける。
「お前もとっとと階級を上げろ。そして俺を手伝え」
「いや~、俺にはそんな佐官なんて無理無理」
「ナイメーヘンで最終的に主席だった貴様に言われたくはない。はっきり言う。未だに根
に持ってるからな!」
「やだな~、ウィンちゃん。リンだってそんな話持ち出さないぜ?」
「あいつはお前にぞっこんだからな。そんな小さいことを気にする奴だと思われたくない
んだろう」
 冷ややかに見つめる。ちなみにリンは三位だった。
「本題にはいるが、あのアクセルという男、味方になるか?」
「さて……な。根本的な原因はわからんがあいつとキョウスケとの因縁て言うのはライバ
ルに近しいモノがある。俺とお前みたいな、な。それを上手く持ってくれば、こっちに引
き込むのも可能だろう」

「ミーナにおまかせ!ミーナにおまかせ!ミーナにおまかせ!おまかせ~!」
 レクリエーションルームにて、アクセルと女パイロット連中がカラオケに興じていた。
「いや~、流石お姉様方。いいお声をしとりますな~」
 一応中の人は皆歌手デビューしている。
「それでは4番、不詳、もとい不肖アクセル、突撃ラブハート!俺の歌を聞け~!」
「いえ~い!」
「いよっ!サウンドフォース!」
 楽屋ネタ丸出しの、半ば宴会と化したそこにラミアが現れた。
「Let's go!突き抜けようぜ夢で見た夜明け~まだまだ遠いけど~」
 それに気づいたアクセルが歌いながら、ソファに座るようにジェスチャーした。
 歌い終えて、ラミアの隣にどっかと腰を下ろすアクセル。
「ラミアちゃん、どしたの?もしかして、俺に会いに来たとか?」
「はいです」
「マジで!?マンモスラッキー!嬉しいなぁ、君みたいな可愛い子に好かれるなんて……」
 その手を取ってぎゅっと握りしめるアクセル。
「お、なんだなんだ、カラオケか?俺も誘ってくれたっていいだろうに……」
 今度はイルムが入ってきて、曲を入れる。
「え~、だってイルムの十八番って陰気な曲なんですもん~」
「エゴイストの夜をバカにするな!」
 グレースの非難を受けながらミーナに命令書を突き出す。
「何これ……?え?」
「艦長からの命令。アクセルの監視はラミアが引き継ぐんだとさ」
「え~!?そんな、つまんない!」
 本当につまらなさそうに口をとがらせる。
「えーと……つまりラミアちゃんが来たのはお仕事って事?」
「そうでございますことよ」
 見るからにがっくりと来ているアクセル。
「とほほ……なんだな、これが」

 カラオケも終わって、スクランブル要員に入っているアクセルはブリーフィングルーム
へ向かう。
「ああ……俺はこんなにもラミアちゃんのことを想っているのに……いやいや、一緒にい
てくれることをここは喜ぶべきか……」
 道中、やけに芝居がかった風にそんなことを苦悩しているアクセル。
 正直ラミアは何故自分でも彼を庇うような発言をしたか、わからなかった。かつてアラ
ドを庇ったときと同じく、感覚的にそうしなければならないと自意識が告げたからなのだ
が、そういえばそもそも何故自分はあの時も彼を庇ったのか結論を出していなかった。
 今一度あの時の状況を思い返してみる。
 あの時のアラドは、自らのパートナーである(あの時は知るよしも無かったが)ゼオラ
を庇って機体を破壊されていた。
 軍人としてみればあまりにも非効率的な行為だが、今の自分ならばわかる。それは必死
で大切な者を守ろうとする行為で、一概に褒められたモノではないがその心は間違いなく
尊ばれるべきものであるはずで……
 つまり、自分は彼に好感を抱いたのだろう。
 その方程式で言うとアクセルにも自分は好感を持っているのだろうか。
 ……そうかもしれない。かつての彼は傲慢で、他者を見下していたが、今の彼は人なつ
っこく、自分を三枚目にしながら他者との壁を積極的に取り払おうとしている。それは、
好感を持てることだ。
「それにしてもなー……監視が解かれないって事は……俺、もしかして敵だった?」
 昼食でも尋ねるかのように、ごく自然にそんなことを尋ねられた。
「……なぜ?」
 自分の表情が薄いことをラミアは初めて感謝したが、アクセルにはその間だけで十分だ
った。廊下の隅にしゃがみ込んで床にのの字を指で書く。
「だってさ、最初ミーナ姐さんが監視についてて、やってきたラミアちゃんにあれこれ聞
かれてから、そのラミアちゃんに監視されるって……これはラミアちゃんに関係の深い敵
だったのかなーとか思う訳なんだな、これが」
 たとえ記憶を失っていても隊長は隊長か、といささか見当違いな方で感心する。
「ま、一目会ったときからビビッと来てたんだな、これが。この娘とは何か関係があるぞ!
って……」
「たい……アクセルさん……」
 アクセルはやおら立ち上がり、ラミアの手を取ると
「そう!俺たちは戦場で銃を向け合うロミオとジュリエットだった!違う陣営に属してい
た俺たちは、惹かれ合いながらも互いの想いを告げることも叶わず、そして俺は行方不明
になり記憶喪失になって帰ってきた……」
 などと宣いながら反対側に大きく手を上げていた。どこの舞台俳優か。
「だが、記憶を失った今ならば何のしがらみも無く言える。好きだっ!ラミアちゃん!」
「…………」
 事態の展開が急すぎ、自身の人生経験では裁ききれない状況にただ口をぱくぱくしてい
る事しか出来ないラミアだった。
「……ウケなかった?」
 というかそれを冗談と取れるほどに成熟できていない。
「ま、いいや。どっちにしろ俺が敵だったのは、確定事項っぽいしな、これが」
 くるりと踵を返し、再びブリーフィング・ルームに向かう。
「正直、記憶が戻りたくないんだよね……たまにフッと思い出しそうになる時って、ラミ
アちゃんとも、姐さん達とも、この艦のみんなとも敵になっちゃいそうで……」
 それに追いつき、腕をとる。
「……だったら、記憶が戻った後も今のご自分を忘れないでいてくださいです……。そう
すれば、私たちとも敵対せずに、仲間でいられたりします」
「出来るかな?時たま、記憶喪失前の思考でモノを考えたりしてるっぽいんだけど……え
らい冷血な思考なんだな、これが」
「だめですわ」
 ぎゅっと、アクセルの腕を抱きしめる。
「その思考に捕らわれてはいけませんのです。そのアクセルさんに戻ってはだめでござい
ますわ」
「ラミアちゃん……」
 アクセルは感動していた。自分の腕に押しつけられた胸の張りの良さと弾力とに。
「わかったよ、ラミアちゃん。俺、君のためにもきっと自分を無くさない」
 ギャグ五割、助平根性四割、一割だけ本気でかっこつけながらアクセルは言った。
 が、それを真っ正面から受け止めてしまうのが今のラミアだ。
「私のために、でございますですか?」
「そうそう。男ってのは、好きな女の子のためなら何だって出来るんだな、これが」
 にぱっと笑いながら調子のいいことを言っているアクセル。そろそろ落としどころかと
オチに入る。
「んじゃあ、今の俺を忘れないように熱烈で衝撃的なチッスを……」
 ん~、とわざとデフォルメされたタコのような口になって目をつむり、ラミアに近づけ
る。
 が、いつまで経ってもひっぱたかれる様子がない。疑問に思い、目を開けてみるときょ
とんとした顔のラミアがいた。
「チッス……キス、だったりしちゃったりしますか?」
「う……ああ、そうキスキス」
 しばらく考える仕草をした後、ラミアはアクセルの目をのぞき込むように尋ねた。
「キスすれば、記憶が戻っても今のアクセルさんでいてくれますのですか?それなら……」
 スッと、ラミアの方から目を閉じた。
(な、なに~!?)
 アクセルとしては呆れて離れても、頬を引っぱたかれても、キャラ的に美味しいと思っ
ていたのだが、ここに来て予想外の方向に美味しくなって来ている。
(え?これなに!?どっきり!?)
 周囲を見回すが、誰も覗いている様子はない。
(こ、これは……据え膳食わぬは男の恥という奴か!)
 未だにしがみついたままだったラミアの手を離し、その剥き出しの肩に手を乗せてそっ
と顔を近づける。
 別に喜んで口づけするような相手じゃないぞ、なんてつまらん事を言っている奴が胸の
裡にいたが、そいつが時たま呼び起こされる過去の記憶だというのもわかっていたので、
平気で黙殺してプックリとしたラミアの唇に自身のそれを重ねた。
(うわー、うわー!)
 唇の感触が、もう、脳のシナプスが焼き切れようかというほどに脳内を駆けめぐる。
 そのまま貪り尽くしたい衝動に襲われたが、流石に初めてのキスから(本当は二度目だ
が)そんな事をしては幻滅されるだろうと、自制する。
(おちつけ……キスは許してくれたんだ。こっからこつこつと行けばムフフなところまで
直ぐだ直ぐ!変な気ぃ起こして嫌われたら目も当てられねえぞ……うわぁけどこの唇……
舐め尽くしてぇ……)
 かなり精神力を削りながらも、辛うじてアクセルは唇を離す。でっかいおっぱいにばか
り気を取られるが彼女の魅力はその唇だ!と妙なところで確信を抱きながら。
「……?」
 正直、ラミアとしてはこんな中途半端で終わったのが意外だった。そもそも、以前一度
だけキスをしたことのあるこの目の前の男は、訳ありとはいえ初めっから口の中をねぶり
つくしてきたのだ。
 まぁ、かつて一度経験したことだからこそ、その程度で変わらないでいることを確約し
てくれるのなら、と応じたのだが。
「これで、終わりなんでございますか?」
「う?ああ……」
「もっと……凄い事されるのかと思っちゃってたりいたしましたの」
 ラミアにいわれた途端、文字通り悶絶し、壁にぶつかり、ごろごろと転がるアクセル。
「あ、アクセルさん!?」
 突然の奇行に心底心配するラミア。
(ダメ、我慢できない!もうやる!ヒィヒィ鳴かせたるっ!)
 おかしな方向に決意を固め、完全に野獣の目となるアクセル。正にアクセル全開。
 飛びかからんとしたとき、鳴り響くエマージェンシーコール。
「敵かっ!」
 戦闘モードの表情に切り替わるラミア。
 抱きしめようとしたアクセルの腕は空を切り、そのまま壁に激突する。
「くっそー!なんつータイミングで来やがる!」
 ぶつけた鼻をこすりながら立ち上がる。
「アクセルさん、行きますです!」
「異星人野郎どもぉ……この俺のリビドーの発散を阻止させたこと、死ぬほど後悔させて
やるからなぁ!」
 下品なことを大声で怒鳴りながら格納庫へと走るアクセル。
「ヴァイサーガは馴染んで来ているのでしょうかしら?」
「おうよ!俺の手となり足となり!連中に地獄を見せてやるんだな、これが!」
 八つ当たり気味に、やる気満々で目の血走っているアクセルが叫んだ。
 ……が、この戦闘が両者の運命を変えることなど、アクセルもラミアも、知りようもな
かった。



◇  ◇  ◇



626 :それも名無しだ :2006/10/17(火) 00:12:09 PS3Xvwnm
GJ!!
いやキャラの絡ませ方がうまいなぁ、続きもワクテカしながら待ってます


628 :それも名無しだ :2006/10/17(火) 00:39:28 cz3itBIf
GJ!
F組が出てくるのも嬉しい
「別に喜んで口づけするような相手じゃないぞ」てのも悪セル隊長ぽい台詞だ



629 :それも名無しだ :2006/10/17(火) 07:30:49 ljnD4mOu
GJ! F主人公sも面白い
ラミア口説くときの、女性と見ると芝居がかった調子で口説かずには居られない、って感じがぴったりだった

だけど、記憶喪失時のアクセルはがっつく感じじゃなくて、内心凄く冷めてる印象だったかな
真剣にボケもするけど、口で軽い事言いながら頭の中ではかなり打算的に考えてる、ってシーン多かったし




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633 :623 :2006/10/18(水) 13:29:04 Scb6FvCd
どうも、皆さんのたくさんのGJありがとうございました。

え~、これはタイムスケジュール的にはD萌スレで出した助手ラキよりもそこそこ前の話なんですが……
皆さんの同意が得られれば、この二つをつなぐミッシング・リンクも書きたいと思います。



634 :それも名無しだ :2006/10/18(水) 14:36:03 8N1r+WFB
反対する理由はない。
やりたまえ。
というか、書いてください。
お願いします。



635 :それも名無しだ :2006/10/18(水) 16:03:45 4egI3eJG
どんとこい


639 :623 :2006/10/18(水) 23:25:41 Scb6FvCd
何だかアクラミよりもその前後の方がメインになってしまったような……
すみません。



◇  ◇  ◇


「リュウセイ……久しぶりだな。まだ生きていたか」
 最初は、些細な遭遇戦だった。
 哨戒中にエアロゲイターと接触したSRXチームの援護に母艦であるハガネ自体が乗り出し、向こうの逐次戦力投入を捌き続けた後に、あの漆黒の堕天使が現れたのだ。
「イ……イングラム教官……」
 目を見開いたリュウセイの前で、バッと緑色の翼が広がる。
「貴様達が無事でいるということは、アーレフは敗れたか」
「あ、アーレフ……?」
 聞き覚えのない名前に尋ね返す。
「俺のフルコピーのクローンだ。俺の全人格を写し、お前達の前から姿を消した後の俺の身代わりとしてジュデッカの枷の犠牲となってもらった……」
「それじゃあ少佐……あなたは……」
「……俺は、間違いなく本物のイングラム・プリスケンだ」
 ニヤリ、と凶悪な笑みを向ける。
「さぁ、失望させるなよ?ネビーイームを退け、星間連合の一派をも蹴散らした貴様達の力を、俺に見せてみろ……!」
「チッ……」
 キョウスケが小さく舌打ちした。
 あの黒い機体はおそらくR-GUNリヴァーレの改修型。とすれば、自ずとその力はあれ以上となる。
 SRXチームと、ATXチーム……かつてのハガネ・ヒリュウ隊でも中核を成した二小隊だが、数に差が有りすぎる。やれるのか……?
「スチール2より各機へ!ノア5が来た!以降は向こうの部隊と連携して、これに当たれ!」
 テツヤの声が響いて、それに伴うように機体の方が大型艦の接近を伝えた。
 スペース・ノア級5番艦、ヒヒイロカネ。
「うわお、ラミアちゃん達も来てくれたのね?」
 真っ先に飛び出す黒と桃色の二つの特機。その内の一つで、異変が起きた。
「なん……だ……?アルト……アイゼン……?」
「アクセルさん?」
 その異変に気づいたラミアが声をかける。
「ゲシュペンスト……マーク……スリー……」
「!?隊長、記憶が!?」
「キョウスケ……ナンブ!」
 ヴァイサーガのリミッターが解除され、アクセルは無意識にコードを入力する。
「コード……光、刃、閃……!」
「アサルト1より各機へ。仕切り直しだ。ヒヒイロカネの連中と……」
 部下達への命令を告げていたキョウスケだが、結局最後までは言えなかった。それよりも先に黒い影が走ったからだ。
「ベーオ……ウルフぅぅぅ!」
 撃ち込まれた剣戟を、バンカーで受ける。
「アクセル・アルマー!?」
「ちょ、ちょっとぉ……なんであのストーカーがヒヒイロカネから出てくるのよぉ?」
「う、うううう……」
 うめき声を上げながら、後ずさるヴァイサーガ。
「しかもあれ、レモンからラミアちゃんが餞別にもらった奴じゃない!」
「アクセル隊長!隊長!いけませんです!先程の約束、お忘れになっちゃんですか!」
 慌ててそれを追ってきたアンジュルグがヴァイサーガの前に立ちふさがる。
「うぐ……うう……俺は……俺はぁっ!」
 苦悶に満ちた表情で、もがく。
「アクセルさん!」
「シャドウミラーの……!」
「アクセル!」
「!……貴様に、呼び捨てされる謂われはないっ!W17っ!」
 その言に、ぐるんと視界が回るほどの衝撃を受け、一瞬完全に無防備になるアンジュルグ。
「くっ……こんな、甘い連中と一緒にいたとは……!」
 頭の中がぐるぐるしている。
 理性が告げる。とっとと剣を抜け、と。
 感情が訴える。バカなことはやめろ、仲間だろう、と。
「くそっ!俺まで感化されたか!俺は!俺はアクセル・アルマーだぞっ!」
 そんな言葉と共に、ヴァイサーガは飛び去った。
 その後、また後ろで戦闘が始まったようだが、自分には関係のないことと切り捨てた。

異界の闇騎士

 クロガネ艦内。
 この異世界ラ・ギアスに呼び出されて既に一ヶ月。シュウ・シラカワの協力要請を受けて同行し始め一週間。
 ユウキ・ジェグナンは最近ろくにお茶も楽しめていなかった。
 協力してくれれば、地上界へ帰してくれるというシュウ・シラカワと手を組んだ辺りから話は始まる。
(それではこれから自分はトロンベに乗り、シラカワ博士を手伝うことにしよう)
 艦長としてやってきたエルザムがそんなことを言って、それではクロガネの指揮は誰が執るのかという話になったとき、何故かエルザムは何でもないことのようにユウを指名してきた。
 もちろん、自分のように若輩で少尉程度の階級の者が艦を指揮するわけにはいかないと断ったのだが、それでは民主的に行こう、とクルー全員で多数決を取るとユウが指揮を執ることに大半の者が賛成であった。
 ……全員の創意であるし、自分が信頼されているのだからその信頼を裏切るわけにはいかないとしぶしぶ承諾したユウだったが、何故か今彼の目の前には戦闘指揮には関係のない艦の平常運営に関する書類が回ってきていた。
(まさか少佐、このままなし崩し的に今後も面倒ごとを全部俺に押しつけようとしてるんじゃないだろうな……)
 そんなことを勘ぐりたくもなってしまう。
 というか今から考えれば『民主的』な選考も端から仕組まれていたのではないかとも思えてくる。
「ユ~ウっ」
 そんな彼の恋人でもあるカーラがひょっこりと訪れた。指には、祖母が彼女に渡したらしい指輪がマリッジ・リングの位置に填っている。
「カーラか……」
「あ、ちょっと……二人っきりの時は……」
「仕事中だからな?」
 言葉を遮って、そう釘を刺す。それに思いっきり不満そうな目つきで返す。
「仕方ないだろう。何故か艦の平常運航まで任されたんだ」
 文句ならレーツェルさんに言ってくれ、とも言えず、鬱屈とした気持ちで書類を片づけていく。こっちだって会いたかったんだ!という本音はかけらも見せずに。
「でもさ、シラカワ博士についていって大丈夫なのかな?」
 正直な疑問を口にするカーラ。
 先のゼ・バルマリィ帝国第7辺境観察軍との決戦の後に、敵対したシュウ・シラカワとその乗機の真なる姿ネオ・グランゾンとの戦いは、ラグナロクのコードで極秘資料扱いで保存されている。
「あの時の博士の言動や、俺たちの感じた彼にまとわりつく念。それを考えると、今のシラカワ博士はこちらが手出ししない限り、危害を加えるつもりはないと思いたいな……」
――すべての者はいつか滅ぶ……今度は私の番であった……それだけのことです……
 彼の死に様を思い出すと共に、あの時味わった不快感が胸中によみがえる。
 しかし、非常識なものだ。死者が蘇るとは。
「それじゃあさ、あの赤毛はどう思う?」
「赤毛?ああ……全く破廉恥な奴だ。目のやり場に困る。それに……?」
 カーラが、思いっきり不審な目を向けている。
「何だ?」
「あたしは男の方を言ってるんだけど?」
「あ?あ……ああ!」
 何の疑問もなくサフィーネの方を持ってきていた。
「ふーん……ユウはそんなに気になってるわけ。あっちの方が。ふーん……」
 いかん、不機嫌だ。
 仕事をこなしながら臍を曲げてしまった彼女への対応を苦慮しなければならなくなったユウ。受難である。

 クロガネの展望室。
 その赤毛の男が仏頂面で居た。
 あの時、戦闘空域を離れてからエアロゲイターと戦う傭兵まがいのことをしながら生きてきた。
 結局踏ん切りが付かず、戦いを挑むことも、彼らの仲間に身を投じることも出来ずに居たが、何の因果かこんなところに飛ばされてしまって、また惰性で戦い続けている。
 今の自分はもうかつてのようには動けない。
 士官学校に通っていた頃の自分が記憶を失った事により表に出てきた。それは若く、青臭く、一笑に付すモノでありながら、どうしようもなく自分の中でウエイトを占めていた。
 おまけにあの時のラミアの言葉が自分を嘖ませ続けている。
――……だったら、記憶が戻った後も今のご自分を忘れないでいてくださいです……。
――そのアクセルさんに戻ってはだめでございますわ
――キスすれば、記憶が戻っても今のアクセルさんでいてくれますのですか?
 キス、の感触もまだ残っている。
 二年前、あいつが作られたときとは、全く違う印象と感触の……

 二年前。向こう側。
 腐敗を続ける連邦上層部にシャドウミラーが反旗を翻すための準備期間。
 イスルギも、FI社も引き入れた。Wシリーズと呼ばれる、レモンの人造人間達も数が揃いだしていた。
「それで、Wナンバーの最終調整を手伝ってもらいたいの」
「……何を手伝えと言うんだ。お前の専門のことなど、俺は欠片も知らんぞ」
「そう考えこまなくっていいわ。ただ、W11,13,16,17は女の子として建造するから、その教育を手伝って欲しいだけ」
 そこで、ピンと来た。
「わざわざ俺に頼むことか。お前の作る人形共なら相手をしたがる奴はいくらでもいるだろう」
 ダッチワイフを相手にする気はないと、言外に込める。
「あら、だからこそよ。私の可愛い作品をゲスな男達の性欲処理に当てるわけにはいかないもの。その点、あなたなら作業と割り切るでしょう?」
「…………」
 それが、自分の男に向ける言葉か。
「そんな顔をしないの。信頼してるって事なんだから」

 一ヶ月間、愛のない性交渉をし続けた。
 互いに快楽を求めるのではなく、手法の説明という作業だ。
 そして最後にロールアウトしたW17。
 いい加減人形共への応対も手慣れてきて、自分の中で教習プログラムじみたものも組みあがっていた。
 ブザーが鳴り、入るのを許可すると、W17が入ってきた。
 この最後の一体で、苦痛の宴も終わりを告げる。
「W17,参りました」
「ああ……用件は理解しているな?」
「はい」
「言ってみろ」
 別に聞く必要性は無い。ただの戯れだ。
「今後の情勢において、敵地への潜入が必要となったときのための技能学習です」
「く、くくく……」
 技能学習、か。言い得て妙なものだ。
「何か現状の認識に不備がございましたか」
「いや、それでいい。それで合ってるさ……」
 喉の奥で低く笑いながら顔を上げる。
「……今日は手始めにキスの仕方を覚えてもらう」
「はい」
「試しにキスとは何か、言ってみろ」
 これも、戯れだ。
「相手の唇、頬、手などに唇を付け、愛情や尊敬の情を伝える行為です」
 能面の顔で、端的に応える。
「そうだ。だが、人形であるお前に情を伝える必要など無い……俺の教える技能だけを覚えていればいい」
「はい」
 W17の顎をつかみ、両頬を指で押し、口を開かせる。
「俺の舌を入れる。それに絡み付かせろ」
 返事を待たず、目前の人形の中を蹂躙するために口を付け、舌を押し込んだ。
「ん……」
 それが、W17の初めて交わしたキスだった。
 愛はなく、嫌悪感もなく、ただ、目前の男の一部を受け入れるという……
 当時は考えもしなかった。否、彼女自身も何も感じては居なかっただろう。だが……
 今、当時のことを彼女はどう思っているのだろう……人格を獲得した彼女は……やはり……嫌悪しているか、この俺を……

 ……目が、覚めた。
 いつの間にやら眠りこけていたらしい。昔の夢を見た。
「やっぱり……嫌ってるだろうな……」
 だから、記憶が戻らないようにと念を押していたか……。
 そう結論づけた事により、もう自分があの頃の自分には戻れないことを半ば確信めいて理解した。……多分、キョウスケにも以前のような憎悪は抱けまい。ラミアを人形と見下すことも出来まい……。
 そこでようやく全身の感覚も目覚め、気配を察した。
 展望室の入り口に立っている少年がこちらを見ていた。……ジョシュア・ラドクリフとか言ったか。自分たちと同じく、地上から愛機エール・シュヴァリアーと共に呼び出されていた。
「何だ?」
「この艦の連中に、あんたは私怨で戦う奴だって聞いた」
 室内に足を踏み入れながら彼は言った。
「その相手がこの艦の仲間なんだと言うことも、あんたがかつてこの艦を相手に戦ってたことも」
 ベンチに座っているアクセルの側に立つ。
「そんなあんたが、どうしてこんな所にいる?」
「出て行けとでも言う気か?」
「そうじゃない。その男の所へ戦いを挑むのならわかる。その仲間のこの艦に敵対するのならそれも頷ける。けど、あんたは何をやっている?」
 若い目が、こちらを見つめる。
「情けない男と思うか?だがな、一度記憶を失って、それまでの自分を全否定するような自我を持った後でそれを取り戻すのは、辛いんだ」
「……だが、あんたはここで燻っている。自分を否定したのなら、その男と歩けばいいのにこんな中途半端なところで燻って、それもシュウ・シラカワといういいわけを使ってだ。それは腹立たしい、歯がゆいよ」
 言いたいことを言ってくれるな、と頭をかく。
「もしメンツを気にしてるのなら馬鹿馬鹿しいことだと言ってやるよ。聞いた話によればあんたは何度も敗退を繰り返した挙げ句、こうしている。体面を気にするような立場か?」
「お前の言うことは分かるがな、ラドクリフ。割り切るにももう少し時間が欲しいのさ、こいつがな」
 ようやく今の自分が何者なのか知ったばかりなのだ。
 次にあいつらに会ったら、素直にその道を共に歩もう。……そう心に決めてみて、初めて自分の裡にある澱が綺麗さっぱり消え去ったのを感じた。
 結局、本心では求めていたのだろう。再び彼らと共にあることを。
 苦笑して、ベンチから立ち上がって、その事に気づかせてくれた少年と肩を組む。記憶を失っていたときのように。果てしなく遠く、限りなく近い世界の過去に友としていたように。
「……思ったよりも馴れ馴れしいな、あんたは」
「感謝してるんだよジョシュア。お前の一押しで今の俺が何をすべきかが分かった気がするからな」
 過去の自分に無理に近づこうとするのは止めよう。記憶を失っていた時の奔放さで生きていこう。そうすれば、きっと、向こう側よりはずっと上手くいくはずだ……。



◇  ◇  ◇



640 :それも名無しだ :2006/10/18(水) 23:46:27 Egw0/mCi
GJ!!
個人的にイングラムが蛇足な気がしたけど、EX等のネタの絡ませ方は面白かったです
続き楽しみしています


投稿者 ko-he : 2007年06月05日 08:41 : スレ内ネタ:SS

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コメント

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いいわけ

えと……前半のウキーラはこちらに収録させて貰っているユウの里帰りと若干リンクしています。
あと、ジョッシュの言動が幼めなのは、D本編よりも前の時間軸だという想定の下、あえてそうさせて貰いました。
本編中のジョシュアなら、こんな突っかかる言動はしないでしょうから……。

というわけで、異界《ラ・ギアス》の闇騎士です。

投稿者 Anonymous : 2007年06月05日 07:35

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