2006年03月19日
 ■  「彼ったら私より自分の紅茶にお熱なの」

315 :名無しさん@お腹いっぱい。 :2006/03/18(土) 23:05:22 hR7PkMjL
停滞した流れに、稚拙なユウカーラSSを落としてみる

二週間ぶりに半舷休息を手に入れたリルカーラは、渋るユウキの手を引っ張りながら
デートを満喫しようと身も心も張り切っていた。
繁華街に出向き、目当ての映画館に辿り着いたリルカーラは
一枚の看板に向かって指を差した。

「ホラ、あれだよあれ、私が見たかったコッテコテの純愛映画!」
「よほど好きなんだな、そういうのが」
「女の子だもの、あったり前じゃん!」
「そういうものか…俺はどうにも苦手だが」

楽しそうに語る彼女の傍ら、少年は渋った表情のまま
時計にチラチラと視線を移している。
そんな彼の様子には気付かず、少女は得意げに映画の魅力を語りだす。

「主役の俳優がクールなドイツ人で、お相手は亡国の小さな姫君…どっかで聞いたような設定だよね」
「そうだな」
「これって今日の二時半からの放映が最終なのよ、ギリギリ間に合ってよかったぁ」
「…ならば俺は駄目だな。映画はお前一人で見に行けばいい」
「ど、どうしてさ!?」
「今からでは三時のティータイムに重なってしまう」
「どうしてそういう理由で断るかなぁ…それじゃ意味ないよ!」

ユウキの紅茶フリークは自他共に認めるところだが、必要とあらば
戦闘以外のあらゆる行為を中断してでもティータイムを設けようとする習慣ぶりは、
むしろ執念のようにすら見えた。
リルカーラとしては、この映画はあくまで二人一緒に楽しめなければ意味がない。
情熱的な恋愛映画に感化されて、情熱的な恋愛がしたいと願っている相手はこのユウキなのだから。

(こういう所、全然融通が利かないのよねぇ)
「そろそろ頃合だ、喫茶のできる所を探そう。雰囲気のいい店があるといいんだが」
(デートの雰囲気はブチ壊しにしてくれるくせにさ)


316 :315 :2006/03/18(土) 23:06:01 hR7PkMjL
こんな時カーラは、同年代で仲のよい三組のカップルを思い浮かべては羨む。
男児的なブリットを立てる、慎ましいクスハ。
懸命なリョウトを思いやる、母性的なリオ。
奔放なタスクを適度にたしなめる、知的なレオナ。
三人の少女はそれぞれ理想的な恋人を見つけて、今という刻を幸せに生きているのに
ユウキと微妙に噛み合わない自分と比して妬けてしまう。
「今しか見られない映画を見たい」と言ったなら、きっとブリットもリョウトもタスクも従ってくれるだろう。
ところが眼前の少年は、キッパリ自分より紅茶を選ぶのである。

(だからって本気で嫉妬したらバカみたいでしょ)
「どうした、そんな所に突っ立っていると置いていくぞ」
「ちょ、ちょっと待ってよ!」

しかし、うなだれる自分を映画館の前に置き去りにして喫茶店に入っていこうとするユウキは、
本当の薄情者ではないかとも思い始めていた。

「風味はいまいち、蒸らしも雑だな。60点というところか」
「店で出されたものに点数をつけるのって行儀悪いよ、ユウ?」
「なら言い換えよう。二度飲む価値はない味だ」
「もっと酷いでしょ。あたしはそんなに悪くない味だと思うんだけどなぁ」
「安い舌をしていると人生も損をする」
「神経質な舌よりマシだよ」

向かい合わせのテーブルに座っても、目を閉じて茶葉の香りを堪能するばかりで
リルカーラと視線を合わせることは稀だ。冷静さとマイペースを貫く性格も、こんな時は疎ましい。


317 :315 :2006/03/18(土) 23:08:01 hR7PkMjL
「そういえば、映画は見なくてもよかったのか? 今日で最終日と言っていたが」
「…今更もういいよ。後でレンタルして見るから。一人で!」
「そうか」

リルカーラの当てこする意図にも気付かず、再び目を閉じて茶葉の香りを愉しんでいる。
点数以上には気に入ったのか、結局ユウキはきっちりと飲み干したようだ。

「それで、次は何処に出かけるんだ?」
「…もういいよ。帰ろう」

ユウキの口調が連れ回されている男の言い分に聞こえたのか
一人で愉しんだつもりになっている自分とは対照的で、無味乾燥な態度に感じられた。

(ダメだ、あたし今日イライラしてる…)

最早デートどころではない。いや、初めからデートですら無かったのかもしれない。
甘酸っぱい幻想を打ち砕かれてすっかり意気消沈したリルカーラは、
その後母艦に戻るまでの足取りすら覚えていなかった。


その夜。リルカーラは目を赤くして自室のベッドに寝そべっていた。
根が明るく滅多に落ち込まない彼女らしからぬ振る舞いだが
それだけ大きいショックを受けている事は明白だった。
少々朴念なところがある人物とはあらかじめ分かっていたが、よもや念願の誘いを
紅茶を理由にソデにされたのが余程悔しいのだろう。

(何よ、薄情者! ユウのバカ、バカ、紅茶バカ!)
「…明かりも付けずに何をやっている?」

部屋のロックを掛け忘れていた事も、いつの間にかユウキが覗き込んでいた事にも
気付かなかったリルカーラは、努めて顔を見られないよう振舞う。


318 :315 :2006/03/18(土) 23:09:57 hR7PkMjL
「べ、別になんでもないよ。疲れたから休んでるだけ」
「そうか。…泣いてるのか?」
「そう見える?」
「…すまない、俺には泣いている女性の扱い方が分からない」
「英国紳士とは思えない台詞だね」
「お前こそ、らしくないじゃないか」
「…あたしだってたまには泣きたい時もあるよ」

ユウキは何も言わずにリルカーラの横に座ると、淹れたてのティーを茶皿ごと手渡す。
勧められるまま嚥下すると、ほんのりとした甘さと渋さが彼女好みの風味を醸している。

「…これ、レモンと砂糖多めに入れてるでしょ」
「ああ」
「そういうのって『邪道』じゃなかったの?」
「お前はこの方が好みだと言っていた筈だが」
「覚えててくれたんだ」
「自分好みの味を探すばかりが能じゃない。…気に入らないのなら淹れ直すが」
「これでいいよ」

並々ならぬこだわりを示すだけあって、昼間の一杯より遥かに堪能できる味だった。
旨みと温かみに誘われて、リルカーラは無意識に一筋の涙を流す。

「なんだか良くわかんなくなっちゃった」
「何が?」
「今の気持ち。嬉しいんだか悲しいんだか」
「…ところで映画の件だが」
「それはもういいよ。あれはあたしも強引だったし」
「いささか非合法な手を使ったが、動画を手に入れた。今から一緒に見ないか?」

驚いて目を見開くと、ようやくユウキと顔を見合わせた。
ユウキは赤く腫れ上がった目には触れず、真顔でその双瞼を見つめ返している。

「どうしたの、いきなり? そういうの苦手なんじゃなかったっけ」
「見たくなかった訳じゃない。お前と長い付き合いになるのなら、
 こういう物にも耐性が必要かと思ってな」
「おかしな理由だね」
「全くだな、俺らしくもない」

マイペースな彼なりに、リルカーラに合わせようとしているのだろう。
それを嬉しく感じられた彼女は、黙ってユウキの肩に頭を預けた。

「もう少し女心に機敏な人になれたら、もっとカッコ良くなれるよ、ユウ」
「だが少しハードルが高すぎる気もする」
「じゃあ別のハードルを選ぶ?」
「…いや、かえって挑み甲斐がある」
「ヘンな告白の仕方だね」
「相手がカーラだからな」

ユウキはそう呟くと、不器用な手つきでリルカーラの頭を胸に抱き寄せ、早く脈打つ鼓動を伝えた。

Fin


    

319 :名無しさん@お腹いっぱい。 :2006/03/18(土) 23:19:09 yA3kIiSB
(*´∀`*)


321 :名無しさん@お腹いっぱい。 :2006/03/18(土) 23:33:23 H7z9Wdp0
>>315-318
(*・∀・)


322 :名無しさん@お腹いっぱい。 :2006/03/18(土) 23:46:35 nD94W0mR
>>315-318
GJ!

 OGでは影も形も無かったウキーラにSSが…いい時代です

投稿者 ko-he : 2006年03月19日 21:51 : スレ内ネタ:SS

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コメント

うはwww俺のSSが載ってるハズカシスwww

投稿者 この時の315 : 2006年03月21日 16:31

あまりにも良作でアップロードサイトが重かったので転載しました。
こんないい物を逃すわけにはいかんのだよw

投稿者 こうへー : 2006年03月22日 02:57

ごめんアップロードサイトとかってのは>>419のSSだったOTL
だが私は謝らない

投稿者 こうへー : 2006年03月22日 03:04

コメントしてください




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