2006年04月07日
 ■  チョコバーの人デビュー作

チョコバーの人:
SS職人で、ゼオアラや様々な良質SSを投下したことで知られる。
そんな彼の昔の秀作

 気温摂氏マイナス7度。緯度・経度共に不明。
 コックピット内に雪が吹き込まぬよう気をつけながらハッチを開けた
ゼオラは、アラドに計器が当てになりそうにないことを告げて雪原へ
降り立った。
「落下の状況から見てここは北半球には違いないけど……」
「他の皆はどの辺に落ちたんだろうな」
 アラドはうんともすんとも言わない通信機をあちこちひっくり返し
ながらそう呟く。機体のあちこちから危うい作動音で不調を報せるビルガー
をようやく動かして、運良くファルケンを見つけたはいいもののそれから
二日、他の機体をまったく見かけない。
「半径二、三百キロ圏内に集中してると思うわ」
「集中ったってそれじゃ…」
「うん……」
 顔を見合わせて二人は黙り込む。
 簡単な雪濠を掘って、使えそうな道具や機器を二人分持ち寄ってみたが、
今二人の前にあるのは無理を重ねた機体が二つと、ガラクタに分類されそうな
中途半端な備品ばかりだ。
 それでも、最悪の状況よりはまだましだ。俺は生きてるし、ゼオラも見つかった。
 だからといって劇的に何かが好転するわけではないのだが、アラドはとりあえず
目の前にある幸運材料にほっと息をつく。不安げな表情で雪濠の外の雪景色を見やる
自分のパートナー。
 ま、ゼオラと敵味方で撃ち合ったときよりはずっと気が楽だ。
 寒いけどヒーターだって何とか使えてるし。
「小隊組んでた同志は俺たちみたいに近所に落ちた可能性も高いし、単機だって
なんとか無事だったんだ、俺たちよりずっと丈夫な機体に乗ってる皆はまず大丈夫
だろ」
「私たちだって今敵襲受けたら、ひとたまりもないけれど」

 不吉なこと言うなよ、とアラドが口を尖らせるとゼオラは眉を寄せた。優等生は
こういう時融通が利かない。だから、なんとかなるさと言うのはいつもアラドの役目だ。
「なんとか、って言ったって救難信号だってうかうか出せないし、通信機だって
目途立たないんでしょ」
「なんとかなるって」
「コクピット内の備蓄食料だってもう使い切るわよ。特にあなた」
「……う」
 ゼオラの視線が冷たい。コクピット内に規定以上の食料を積んでいたにも関わらず、
アラドは規定をはるかに上回る速度でそれを食い散らかした。
 量も減りの速さも予想通りだったけどねと肩をすくめるのはさすがに長い付き合いと
言おうか既に呆れを通り越えて諦められていると言うか。
「まあ、なんとかなるって」
「なんとかって?」
 腕組みで少々考え込んだアラドがパッと笑顔でゼオラに答える。
「ほら、なんだっけ、砂漠を越える時にさあ、コブの中にある水分使って凌ぐって言う、
あれお前もやれよ」
 応えるゼオラも、花の咲くような笑顔だ。
「じゃあアラドも、頬袋の中の大事なヒマワリ、食べると良いわね」
 一瞬の沈黙。
「誰がハムスターだよ!!」
「そっちこそ、誰がラクダよ!!!」 
 再会したときは確かに良い雰囲気だったんだけどなあ。
 この二日というもの、ビルガーのコクピットに独り戻ってきては首を傾げるアラドである。
 おかしい。見つけるまではとにかく気が焦って嫌な想像もして、無事だとわかった
時には肩からどっと力が抜けて。

 ああ、もう、本気でこういうのは勘弁だって思って、絶対離れないようにしようと
思ったもんだが。
 そういや、ゼオラがようやく味方になったときも同じこと思ったような記憶が。
 その前のスクールの連中が離散した時にも似たようなこと考えて。
 駄目だ。顔見るとすぐ忘れる。でもって喧嘩ばっかだ。
 これじゃあ駄目だと言うことは、わかってはいるんだけど。
 しかも雪原で二人きりで二日一緒で色気の欠片もねえとはどういう了見だ。
「んー」
 本来救急キットの入るべき場所にまで押し込んだ、残り少ない非常食料を引っ張り出す。
ゼリー状の栄養食だけでは味気ないので、こっそり菓子類も持ち込んである。
 モニターをオンにする。雪はやんでいる。
 向かい側でファルケンのコクピットから半身を乗り出すようにしてゼオラが作業している
のが見えた。ブースターも駆動系もちょっと甚大にやられているらしい。
「そっち、工具足りてるかー?」
「一通りはあるわ。それよりスペアの生きてる部品、他に何か見つからない?」
「ちょっと待て。……んーっと見あたらねえな…そだ、代わりにこれやるよ」
「え?」
 飛んできたものを確認する間も無く、ゼオラは勘良くそれを受け取る。
 こういう呼吸がぴたりと合うたびに、長い付き合いはやっぱり伊達じゃねえなあと
アラドは機嫌よく考える。

「……チョコバー。あなたこんなものまで」
「おう。まだあるから」
「食べ物人にあげるなんて、おなかでも壊したの?」
「おいおい!」
 怪訝な顔で手の中の菓子とアラドを見比べたゼオラが、ふと、微笑う。
「ありがとう。もらっとくね」
「お、おう」
 いやほんとに、いつの間にかあちこち育ちやがって。
「皆、無事だといいけど」
「大丈夫だって。なんとかなるさ」
「………そうね」
 ようやくゼオラがアラドの意見に同意して、かすかに頷いた。
 まだ何も好転したわけではないけれども、アラドはほっと息をつく。その表情を見て
同じくゼオラも頬を緩めた。
 フィフス・ルナ落としの阻止失敗から、三日。
 まだ、戦いは半ばである。


それから彼は多くの萌えスレ、エロパロスレで活躍することとなった…


投稿者 ko-he : 2006年04月07日 09:13 : スレ:ゼオアラ

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