2007年03月20日
 ■  イングラム先生のお悩み相談室 (その4)

スーパーロボット大戦OGで萌えるスレ その134
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前回の続き



87 :名無しさん@お腹いっぱい。 :2007/02/21(水) 02:32:21 vx/4ds0D
続々々・イングラム先生のお悩み相談室
モイスチャールーム
アル=ヴァンとカルヴィナ。
投下して宜しいか?




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90 :二人はラブラブ(仮) :2007/02/21(水) 02:49:19 vx/4ds0D
———BAR ヒリュウ
「・・・」
 ワカメ青年がカウンターの定位置で不機嫌そうに酒を呷っている。最早この酒場の名物を通り越して主になりつつある男は眉間に皺を寄せて唇を噛む。
 クール&スカシを何時も崩さないこの男がこうも荒れる事は滅多に無い事だ。マスターであるショーン副長もそんなイングラムの様子をハラハラしながら見ていた。

「だから!何だって何時もそうなのよアルは!」
「…落ち着け、カルヴィナ。もう少し穏便にだな…」

 彼を不機嫌にさせているのは後方から聞こえてくる男女の痴話喧嘩が原因だった。
 アル=ヴァン=ランクスとカルヴィナ=クーランジュ。エ=セルダ=シューンと並び賞される最強クラスの騎士と元連邦エース・ホワイトリンクスの喧嘩は日常茶飯事だ。
「全く…不快な気分にさせてくれる」 
 忌々しげに吐き捨てる。イングラムにとって不幸だったのは二人の喧嘩が何時に無く白熱していた事、そしてその現場に居合わせてしまった事だった。
「マスター、ズブロッカをストレートだ」
「少佐…」
 イングラムの注文にショーンは戦慄する。その声には若干の殺気が確かに混じっていたからだ。
「どうした?…早く作ってくれ」
 イングラムの堪忍袋は最早限界だった。普段、彼以外の客が殆ど寄り付かない静かなBARはイングラムにとっての秘密基地の様なものだ。それなのに強制的にノイズを聞かされ酒を不味くさせる輩は彼にとっては害虫以下の存在なのだ。
「……お待たせ、致しました」
「うむ…」
 マスターが恐る恐る差し出したタンブラーの中身を一息で呷り、空のタンブラーの底を勢い良くテーブルに叩き付けた。イングラムが立ち上がる。
「しょ、少佐!揉め事は困りますぞ…!」
「承知している」
 イングラムのしようとしている事を見抜き、マスターは止めるが、イングラムはそこまでの事は考えていない。
 無限気筒を発動する時の凶悪な面構えのまま、彼は喧騒を囃し立てる二人に近付いていった。

「おい、貴様等」

「私は言ってるでしょ…っ、な、何?」
「あ、貴方…は」

 突然の外野からの声にカルヴィナは喚くのを止めた。アル=ヴァンはその外野の顔を見た途端に青くなった。

「酒が不味くなる。他所でやってくれ」
 
 怒りが心頭している事を隠しもせずにイングラムはストレートに言い放つ。
「あんたには関係ないでしょ。…って言うかあんた誰よ?」
「か、カルヴィナ!少佐相手に何て事を!」
 だが、カルヴィナは矛を収める気は無いらしい。乱入してきた外野に消えろと言いたそうな視線をぶつけて、悪態を吐く。
 アル=ヴァンはイングラムと言う男の恐ろしさを知っているからこそ、カルヴィナの暴言を止めさせようとした。
「俺が誰であろうとそんな事は関係ない。一般常識を言っているんだがな?此処はお前の部屋か?…違うだろう」
「ふん…あんたに言う言葉あるとすれば、話す事は何も無いだね。胡散臭いワカメの口から一般常識何て言葉聞きたくないわ」
「止めろ、カルヴィナ」
 だが、そんな彼氏の言葉はカルヴィナには届かない。相当に酔っているらしい。目の前の相手には喧嘩を売ってはならないと言う暗黙の了解は酔っ払いの中から消えていた。
「…ほう」
———ドクン
「「!!!」」
 瞬間、BARの温度が一瞬にして低下した。その異変にカルヴィナもアル=ヴァンも目を見開く。本当にイングラムが怒ってしまったのだ。
「威勢が良いのは賞賛するが…」
「っ」
 ガシッ、とカルヴィナの肩が掴まれた。カルヴィナの顔が凍りつく。イングラムは静かな声色でその女の耳元で囁く。
「勇気と蛮勇は似て非なるモノだな。尤も…お前のソレはそれですらない無謀と言う奴だが」
「ぅ…ぁ」
 相手を見て喧嘩を売れと言う事だ。それが出来ない奴は怪我では済まない。今のカルヴィナに陥っている状況はニアデスと言っても過言では無い。言葉にならない声が喉から漏れた。
———一度死んでみるか?
 イングラムの言葉からはそんな念がひしひしと伝わってきた。
「っ!!」
 それに恐怖したカルヴィナは肩を掴んでいた手を振り解き、アル=ヴァンの後ろに隠れてしまった。
「もっと頭を使え。…餓鬼」
 カルヴィナは精神的に戦闘不能に陥った。それを成したイングラムはアル=ヴァンとその後ろに居るカルヴィナを睨みながら呟いた。
「少佐…あの」
「貴様も男なら、自分の女の手綱位はしっかり握っておくんだな」
 相方が暴走したら、それを諌めるのも相方の勤めであるとイングラムは言いたかった。
「…っ」
 アル=ヴァンは苦々しい顔でイングラムの言葉を聞いていた。額に脂汗を浮かべながら。
「俺の用事は終わった。お前達はさっさと消えろ」
「…分かりました。…さ、カルヴィナ」
「ふ、ふん。分かってるわよ」
 アル=ヴァンはカルヴィナの手を引いて支払いをしにカウンターへと向かっていった。一瞬、カルヴィナがイングラムに視線を向けたが、直ぐに反らした。

「全く…空気の読めん奴等だ」
 漸く、BARの空気が元に戻った。流石に酒を飲む気が失せたイングラムは憮然としながらカウンターへ戻り、マスターの目の前に高額紙幣を何枚か置いて無言で立ち去った。
 迷惑料込みの支払いなのだろう。マスターは何か言いたそうだったが、それを口にせずイングラムを無言で見送った。

———翌日 極東伊豆基地
 時刻は昼下がり。お天道様が照りつける時間帯にあって尚暗いイングラムの執務室に来客があった。
「失礼します」「…失礼します」
 ステレオで聞こえてきた入室時の掛け声は昨日一悶着あったアル=ヴァンとカルヴィナのものだった。
 丁度昼休みの時間帯に突入したイングラムはその来客達の姿に目を細める。
「……昨日のリベンジに来たか?ご両人」
「「そんな命知らずな真似はしません」」
「そうか。…少し、残念だ」
 イングラムの微妙なボケに突っ込みで返す二人は社会人だった。少し残念そうにしながらイングラムは椅子に身をもたれさせ、煙草に火を点けた。
「では、お前達は何用で此処に来た?俺の首を獲り来たのではなかったらな」
「そ、それは…その」
「カルヴィナ、ほら…」
 物騒な事をのたまうイングラムは何故二人がここに来たのかは知っている。相談事の類ではない。用件を言い出せないカルヴィナの尻を叩いたのはアル=ヴァン。
「分かったわよ…!」
 それで決心がついたのか、カルヴィナは目を閉じて深く深呼吸した。そして、次の瞬間に深々と頭を下げた。
「き、昨日は調子に乗ってどうも済みませんでした」
「…連れが失礼をしました。本当に申し訳ない」
 カルヴィナに続き、アル=ヴァンもまた頭を下げる。二人は昨日の事を詫びに来たのだった。
「態々その為に俺を訪れた、か。…己に非があると気付いたのなら、もうそれで良い。俺も昨日は感傷的だったからな」
 だが、肝心のイングラムは昨日の事をさほど気にしては居ない。頭を下げたのならそれで手打ちにする。……本来はそうだ。しかし…
「しかし、昨日の食肉目のあの荒れ方は何だ?気性が荒い事は知っているが、場を弁えない真似をする程愚かだとは聞かないが」
「食肉目?…って、私ですか、それ」
 聞き慣れない単語に白い山猫がクエスチョンマークを浮かべるが、直ぐに自分の事と気付き溜息を吐いた。ワカメ呼ばわりした事を先生は根に持っている。
「——それは」
 アル=ヴァンが目を伏せる。聞かないでくれ、と言う空気が周りに発生していた。
「…話してみる気はないか?」
「「は?」」
 が、先生はそれに興味を持った。だてに人生相談を繰り返した訳では無い。最近は他人の事象に首を突っ込み、裏の部分を知る事に悦を見出すに至ってしまった。
「まあ…そちら次第だがな」 
「…(どうしよう)」「…(恥になるが話してみるか?)」
 素っ頓狂な声を出した二人は、視線で会話する。先生はそんな二人の念話が丸聞こえだった。どうやら、イングラムの逸話は二人の耳にも入っているらしい。
「…判りました。それでは、私から」
「…ああ」
 結論は出た。カルヴィナが話の内容を語ってくれるらしい。イングラムは耳を欹てた。

「アルの服から…女物の香水の匂いがしたんです」

「ふむ…それで?」
 それを聞いて合点が言ったイングラムは煙草の煙を肺に満たした。嫉妬深いと評判のカルヴィナだ。たったそれだけでキレてしまう事は十分に考えられる。イングラムは続きを催促する。
「いえ、それだけです」
「…何だと?」
 アル=ヴァンが疲れた顔でそう締めくくった。イングラムは変なモノを見る目付きで両者を交互に見る。
「何がそれだけよ!私と言う女が居ながら他の女にうつつをぬかす…許せない!」
「だから…何度も誤解だと言っているだろう?私には君が…」
「嘘吐き!…そんな事言って、本当は、私なんか…」
「っ、そんな泣きそうな顔しないでくれ、カルヴィナ」
 …目の前に修羅場と言う名の幻夢界が出現している。二人とも、他人の部屋だと言う事を全く覚えていない様だった。
「ふっ…」
「「あ」」
 漸くイングラムの存在を思い出した二人の声は見事にハモっている。
 …デュエットを歌わせたら上手そうだ。そんな事を考えながら…かは知らないが、イングラムは盛大に笑い始めた。
「フッ、ふふふ、くっ…!は、ハハハハハ……!!」
「しょ、少佐…!笑い事じゃあないです…っ」
「お、お恥ずかしい」
 態々話したと言うのに笑い出したイングラムにカルヴィナはご立腹だ。アル=ヴァンは俯いて恥ずかしそうにしている。
「ふはは…っ、はあ。お前等……いや、お前だな食肉目」
「な、何ですか」
 一頻り笑ってイングラムは漸く言葉を紡ぐ。カルヴィナは少し緊張しながらイングラムの言葉を待った。


「阿呆か貴様は」

「うぐっ!」
 冷たい…否、絶対零度の槍の様な鋭さを持った言葉だった。カルヴィナがその場にへたり込んだ。
「自分の男の浮気を心配するのは理解できるが、お前は過敏に反応し過ぎだ。第一、この男にそんな甲斐性がある訳があるまい」
「その通りですが…少し、釈然としませんね」
 アル=ヴァンが複雑そうな顔をする。フォローしているのか貶しているのかが微妙で判らないのだ。
「お前はアル=ヴァンの事を信じていないのか?大方、人込みで匂いのきつい女に密着でもされたんだろうさ」
「凄い…その通りです、少佐」
「そ、そうかも知れないですけど…私はアルの事が心配で」
「ふーむ…これは、なあ」
 今度はきっちりとフォローを入れたイングラムにアル=ヴァンは嬉しそうな顔をした。だが、カルヴィナは口を尖らせたままだ。
 イングラムは一瞬考えたが、その言葉を言う事にした。オブラートにも一切包まずに直球でだ。

「言い難いが…このままではお前達の仲は長くないな」
 イングラムはカルヴィナとアル=ヴァンの破局を予言した。

「なっ…!ど、どう言う事ですか!こんなに愛しているのにっ!」
「・・・」
「そんなものは両全だ。お前達の間には齟齬がある」
 噛み付いてくるカルヴィナと何かを考えているアル=ヴァンの差が印象的だった。先生は容赦が無かった。淡々と説明していく。
「それは一体…」
「判らんか、食肉目?…お前の愛し方は極端過ぎるのさ。それではアル=ヴァンの男が立たない。…否、逆に潰してしまう。
今のお前は男に最も敬遠されるタイプの女だと気付いているか?」
「!」
 ガーン、と言う擬音が背景に浮かんだ気がする。彼等の関係が歪である証明が成されてしまった。部外者であるイングラムが見抜けるなのだ。多分、誰から見てもそうだろう。
「…確かに」
「なっ、ぁ…アル?」
「その辺はアル=ヴァン自身が良く判っている様だな。
…何事も、過ぎたるは及ばざるが如しと言う事だ。情が深いのは結構だが、過ぎたそれ程人の心を縛るモノは無い。
そして、縛られるのは相手だけでなく自分の心も…と言う事を覚えておくが良い」
 過ぎた愛情は妄執に似る。そんな一抹の狂気が混じった愛を向け続ければ、徐々に形が歪なモノに変わっていくのは必定だ。今の二人はまさにそれだった。
「そ、んな…」
 突きつけられた言葉がカルヴィナに大ダメージを与え、彼女の心はヴォーダの闇に閉ざされた。

「そして、問題があるのは何も食に…否、カルヴィナに限った話ではない。お前もだよ、アル=ヴァン」
「っ…私、ですか」
 ここに至り漸くイングラムはカルヴィナの呼称を直した。アル=ヴァンは何を言われるのかを警戒し、渋い顔をした。
「お前はカルヴィナに甘過ぎる。イエスマンでいる事と良い彼氏でいる事は直結せん。ノーと断る気概がお前には必要だ」
「っ…しかし、それでは彼女を」
 アル=ヴァンがカルヴィナに甘いのには理由がある。だが、イングラムはアル=ヴァンがそれに逃げる事を封じた。
「アシュアリー・クロイツェルの一件で負い目があるのは知っているがね。だが、それとこれとは別問題だ。相手を気遣う事と、自分を殺す事は全く違う事を覚えておけ」
「っ!」
 負い目があるから、縁りを戻した相手に主導権を渡すのは間違っている。一方的に強い立場のカルヴィナとその逆のアル=ヴァン。拗れないでここまで保ったのは奇跡だとイングラムは思った。
「恋愛は一方的なものじゃない。誰かに擁されたり、飼われたりするモノでは無い筈だ。…お前はカルヴィナの犬ではあるまい」
「ぐ、う…」
 図星を言い当てられ、アル=ヴァンがフラつく。表面では見えない部分をも見破る先生の眼力は只者ではなかった。

「俺も恋愛経験はヒヨっ子だからな。偉そうな事は言えんが…愛は二人三脚だと俺は思っている」
 イチャイチャベタベタと抱き合う事でも、二人きりの世界に閉じこもる事では断じて無い。
「依存…とは言わないが、相互補完的なモノである事は間違いない。そこから、初めてはどうだ?」
 互いの欠片で互いの足りない部分を埋め、寄り添って前に進むモノ。それが理想的なのだろう。だが、決して実現できない事ではない。
「「・・・」」
 イングラム先生の深い御言葉がバカップルの心に響く。
「カルヴィナはもう少し丸く…いや、心を入れ替えろ。アル=ヴァンはもっと積極性を身に着けろ。それが俺からの言葉だ」
 その言葉が今回の相談室を締めくくる最後の言葉になった。

「アル…わ、私…」
「カルヴィナ…」
———ガシッ(抱擁)
「御免なさい…!私、貴方の為だと思って、私…結局…!」
「良いんだ。良いんだよ。そんな君が…私は好きだ」
「ああ…アル…」
「カルヴィナ…」
 カルヴィナの濡れた唇にアル=ヴァンのそれが近付いていく。瞬間、カルヴィナは目を閉じ、アル=ヴァンはその唇を…

「続きは、自分の部屋でやってくれまいか?」

「「はうっ」」
 イングラム先生は生暖かい視線を馬鹿に注ぎ、さっさと出て行けと言いたげに煙草の煙を吹きかける。二人の世界に入りやすいのは相変わらずらしい。元宇宙軍少尉と大尉には見えない。(アル=ヴァンの経歴は捏造だが)
「あ、あはは…少佐ってば人が悪いですね…」
「うるさいぞ、ニンフォマニアめ」
 自分の部屋で濡れ場を展開されては堪らない。イングラムはカルヴィナを睨み、カルヴィナはその視線に耐えられなくなり、逃げ出した。
「し、失礼しました!……あの」
 去り際に振り向いて、カルヴィナは何か言おうとした。イングラムはこれで最後とそれを聞いてやる。
「まだ何か?」
「私…少佐の事、誤解してました」
「何?」
「さよなら!」
 カルヴィナはさっさと煙草臭い室内から脱出を果たした。自分の男を残したまま。
「やれやれ…」
「…申し訳ありません、少佐。騒がせてしまった事、お詫びします」
 無礼なカルヴィナのフォローに回るアル=ヴァンは良く出来た彼氏の鑑だった。否、苦労人と言った方が良いかもしれない。
「なに、構わん。…良い娘(こ)じゃあないか」
「そう思いますか?…ふふ、縁りを戻して正解でした」
「チッ、色ボケめ」
「妬かないで下さい」
 そこはかとなく彼女自慢する辺り、アル=ヴァンも垢抜けてきたのだろう。イングラムに突っ込む気力は無く、代わりにこう言った。
「早く行ってやれ。姫君がお待ちだ」
「ええ。…失礼します、少佐。今度、一緒に飲みましょう」
「ああ」
 アル=ヴァンもまた執務室からの離脱を果たした。イングラムは飲み友達をゲットした。

———某日 BARヒリュウ
「愛の形は人それぞれだが…お前との間に交わされたものは、何だったのかな」
 深夜帯に差し掛かる時間、もう看板間近のBARで飲んでいる人間はたった二人だけ。先生ともう一人。
「さあ。今では、もう…思い出せません」
 その人物は暗く沈んだ口調で寂びしそうに言った。
 アヤ=コバヤシ。イングラムがその心に消えない染みを付けた女だった。
「済まない」
「謝らないで、下さい。余計に…惨めになります」
「…済まん」
 イングラムの口からは謝罪の言葉しか出てこない。…もう過ぎた事。アヤ自身としても忘れたい過去だ。だが、イングラムはそれを成したと言う呪縛を振り払えなかった。
「一つだけ、聞かせて下さいませんか?」
 アヤの目は真剣だ。目を離せないイングラムは口内に溜まった唾を飲んだ。
「少佐にも事情があったのは知っています。それでも、私は少佐が好きでした。少佐…いえ、イングラムさんは…私の事は」
———好きだったのか
 アヤがそう問うている。イングラムは一瞬困った顔をし、その後苦虫を噛み潰した様な表情をした。
「答えて…下さいませんか」
「…っ」
 その顔を直視出来なかった。だが、避けては通れない質問だ。優しい嘘の一つでも吐ければ良いのだが、罪悪感が邪魔してそれが出てこない。イングラムは言った。

「…解らない」

 それが答えだ。アヤと付き合っていたのは、アヤの念動力を底上げすると言う裏の目的があっての事だ。元々が偽りの恋愛だった。
 アヤは本気だったのだろうが、イングラムにその気があったのか否かは本人にも解らなかった。過ぎた事を思い出そうにも思い出せない。
「そうですか」
「…済まん」
「酷い…酷い、男性(ひと)ですね…」
「っ」
 そのアヤの言葉には嗚咽が少し混じっていた。幾ら何でも酷すぎる。だが、今のイングラムに嘘は吐けないのだ。
「恨んでいないか?俺の事」
「そりゃあ、恨みもしました。でも、過ぎた事ですから蒸し返したくない。それに…」
「…何だ?」
「イングラムさんは、私を未だ見ていてくれる。…それで良いんです」
 アヤがそっとイングラムの手に自分の手を重ねた。そして、瞳を射抜きながら言う。
「何故…?」
「私…未だ、イングラムさんが好きだから」
「っ!!」
 イングラムの視界が揺れた。あれだけ手酷い仕打ちを受けながら、それを許す。この女の情は、そして器はどれだけ大きいのかが窺い知れたのだ。
 全てを洗脳の所為にしたくない。イングラムの持つそんな安い感傷を打ち砕くには十分な武器をアヤは持っていた。
「そうか」
「はい」
 天井を仰ぎ、深呼吸をするイングラム。己を許容してくれる人間が側に居ると言う事実。イングラムはアヤを初めて意識した。
「アヤは……優しいんだな」
「貴方が…優しすぎるだけです」
 考えても見れば、己の周りにはこう言う輩が大勢居るのだ。困った時はお互い様。そして、そこから生まれる絆もあれば、新たに知れる思いだってある。
 良い人で居る事は決して悪い事ではないとイングラムは心に刻んだのだった。

「あの、看板なのですが」
 先生とアヤの空気の前に声を大にして言えないマスターは貧乏籤を引いていた。




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97 :名無しさん@お腹いっぱい。 :2007/02/21(水) 02:58:20 vx/4ds0D
取り合えず、〆。
本当は中盤に濡れ場を挟んだんですけど、ここに投下するのは不適切なので削除しました。
読みたい人います?



99 :名無しさん@お腹いっぱい。 :2007/02/21(水) 03:07:28 HlCb0uEq
何なんだ!?このSSの威力は!?半端じゃないぜ


101 :名無しさん@お腹いっぱい。 :2007/02/21(水) 03:13:58 Xj8jMf9V
>>97
GJ〜〜〜〜〜(ヴォーダ(滂沱)の涙)


それにしても、すっかりイングラムは相談先生が板に付いちゃって(;ω;)



104 :97 :2007/02/21(水) 04:01:48 vx/4ds0D
>>101
取り合えず、揚げときました。

※ODEシステムに完全に引っ掛かっている代物で、且つ八割方冗談のつもりで書いています。
キャラも壊れていますので、自己の責任でお読み下さい。駄目な方はスルー推奨。

http://suparobo.net/blog2/image/kagekagami_uljp00043.txt
注意:携帯では非確認


潤いのある生活を貴方に
相談室夜の部、開業(男性のみ対象)



105 :名無しさん@お腹いっぱい。 :2007/02/21(水) 04:15:55 Xj8jMf9V
>>104
WJ(ワロスジョブ)とでも言えばいいのだろうか・・・

バカップルのイチャイチャぶりを吹き飛ばす先生のイカレっぷりが
ツボったっす・・・しばらくはこれで一献、はおいらの台詞ですよ・・・w
いただきますた、美味しい者をアリガトウ、職人様
これからも頑張ってくだしあ

投稿者 ko-he : 2007年03月20日 17:52 : OG萌えスレ131-135

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コメント

神、降臨ww

投稿者 Anonymous : 2007年03月20日 20:55

あははははははははw
GJ!大笑いいたしましたw

投稿者 Anonymous : 2007年03月20日 21:27

神!
相変わらず独特の文体で、所々笑えますたww

投稿者 Anonymous : 2007年03月20日 21:52

イングラム、もういっそのことカウンセラーでも兼ねたらどうだ?

投稿者 Anonymous : 2007年03月21日 23:13

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