2007年03月16日
 ■  イングラム先生のお悩み相談室 (その3)

スーパーロボット大戦OGで萌えるスレ その132
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595 :Distance :2007/02/16(金) 21:26:48 v+l94gV+
(うう~、ねえ…やっぱり止めようよぅ。幾ら勤務時間外だからってアポも無しに押し掛けるのは非常識だよう)
(此処まで来て何言ってるのよ!最初はあれだけ乗り気だった癖に!)
―――伊豆極東基地
 人通りの全く無い廊下で脳内会話を繰り広げる少女が一人。端から見れば可哀想な人にしか見えないこの少女はある一人の人物に会おうとしていた。
「…何れにせよ、あたし達には標が必要なのよ」
 目の前には扉がある。見つめていると気分が悪くなりそうな重圧感が放たれている扉の内部に彼女達の求める人物が居るのだ。
「よーし…!」
 少女は深く深呼吸し、肝を据え、その扉を開け放った。

「失礼します!」

 入った部屋の内部は薄暗かった。その部屋の中央には仕官用の上等なワーキングデスクが置かれ、青ワカメな部屋の主がパソコンを前にして何かの作業をしていた。
「む?お前は…」
 部屋の主は来訪者の存在に気付き、顔をそちらに向け、そして言った。
「クリアナさん?」
「…その何だか卑猥な略称は止めてください」
 部屋の主の名はイングラム=プリスケン。来訪者の名はクリアーナ=リムスカヤ。
「それで、何用だ?お前を呼んだ覚えは俺には無いが」
「あ、い、いえ…あ、あたし達はその…い、イングラム少佐に是非とも…あの」
 作業の邪魔だと言いたげにイングラムはリムを冷ややかな目で一瞥した。たったそれだけの事でリムは蛇に睨まれた蛙宜しく固まってしまった。上手く呂律も回っていない。 
「落ち着け。俺は用があるのかと聞いた」
「あ…こほん。しょ、少佐はお仕事中でしたか?」
 オレンジ髪で半端な女子高生ルックの来客を怯えさせてしまった。イングラム先生は咄嗟にフォローを入れ、あたふたしていたリムは何とか調子を持ち直した。
「いや、手は空いているぞ。それで用件は……いや、大体判る。相談事か?」
「は、はい!あの…でも、どうして、解ったんですか」
 心の内を見透かされた様に感じたリムは軽い警戒心を露にする。だが、イングラムは何でもない様に言い切った。
「なに、最近こう言う機会が多くてな。それしかないと思っただけだ。…そうでなくては俺と接点がないお前が此処を訪れる理由がない。違うか」
「?…良く判りませんけど、あたし達の悩みを聞いてくれるんですか?」
「聞くだけは聞いてやる。だから、喋りたいなら勝手に喋るが良い」
「はあ…それじゃあ」
 イングラムは手を休めて、リムの言葉に耳を欹てる。折角の来客を無碍に追い返すほどイングラムは独善的では無いし、少なくとも自分を頼ってやって来た人間の言葉位は聞いてやろうと思ったからだ。
 …微かに煙草の香りが流れてきて吐き気を誘ってくる。リムは語りだした。

「アニキ…いえ、兄の事なんですけど」


「む」
 リムの口から出た兄と言う言葉。それに該当する人物は一人だけ。ジョシュア=ラドクリフ。目の前のリムと並ぶ南極一家きっての使い手であり、苦労人として名高い好青年だ。
「最近…兄が素っ気無くて」
「ふむ」
 どうやら今回の議題はこの似非兄妹に関する事らしい。イングラムは耳をオープンにしたまま思案する様に目を閉じた。
「昔は仲が良かったんです。一緒にご飯を食べたり、遊んだり、お昼寝したり、お風呂入ったり」
「それで?」
「でもここ数年でそうした事がめっきり無くなってしまって。だからあたし達…」
「成る程。構って貰えないのだな」
 実に的確なイングラムの矢の様な言葉がリムにヒットした。
「あう。…端的に言えばその通りです。だ、だからですね?あたし達は…」
「昔のお前達の事は知らんが…今の義兄との距離感を縮めたい、か」
「はい。出来るなら昔以上に仲良くしたいと言うか、甘えたいと言うか、ベタベタしたいと言うか…あ、あはは」
 …最後の照れ隠しの様な含み笑いが気になるが、イングラムはさっさと心に浮かんだ言葉を言ってやる事にした。相談事を受けるのはボランティアだが、それを本業にするつもりはないのだ。
「それは簡単な事ではないか?積極的に話しかければ良い。そして自分に義妹が居る事を思い出させてやるが良い」
「そうですけど、中々機会が持てないと言うか…会っても直ぐに逃げられてしまうんです」
 ボソボソと呟く様にリムは言ったが、イングラムはそれを一笑に伏した。
「フッ…機会が持てない?何故、無理矢理にでも会う時間を作らない?回数さえこなせばそんな事は気にならなくなる筈だがな」
「…それは」
「相手は兄だ。何を遠慮する必要がある?あの男は義妹を蔑ろにする様な薄情な輩ではないと思ったが」
「・・・」
 リムは黙ってしまった。イングラムの言葉には何故か含蓄と一抹の真実が含まれている様に聞こえたからだ。
 義理とは言っても兄と妹。少なくとも他人では無い関係だ。その距離感を元に戻すのはとても簡単な事だとリム自身も本当は気付いている。
「見た目に反し、引っ込み思案か?…まあ、それは良い。俺から言える事は…少なくとも妹を嫌いになれる兄は稀だと言う事だ。きっとお前の兄もお前の事は好いている筈だ」
「どうして…?」
 家族同士で骨肉の争いを繰り広げられる関係などは周りを見回しても殆ど転がっていない。だからこそ、イングラムはそう言い切る。リムはその言葉が信じられないらしい。
「なに、俺にも似た様なのが居るからな」
「あ…そう、でしたね」
 その言葉で漸くリムも合点がいった。イングラム先生にも妹…とは違うかもしれないが魂の片割れが存在する事を思い出したからだった。 
「同じ様な…いや、本当は違うが兄弟を持つ者としての助言だ。仲良くなりたいなら積極的に会う事だ。そうすれば向こうも喰い付いて来る。もう少し自身を持つのだな」
「は、はい!」
 イングラムのありがたい御言葉がリムの心に響いた。やはり、先生は偉大だった。
「次はこちらから質問させて貰おう」
「…え?」
 ……そして、必要以上に目敏かった。

「お前は…ジョシュアが欲しいのか?」

「!?」
 核心を突かれたリムは一歩退き、狼狽する。何故判ったのかが理解出来ないらしい。
「何をうろたえる?お前の話を聞く限り、そう考えざるを得ないだろう」
「あ、ああ…ぁ、その…あたし達はそんな…!」
「皆まで言うな。しかし、難しいな。義兄妹の壁を壊して先に進もうと言うのだからな」
 リムを無視しイングラムは腕を組んで思案を始める。色恋沙汰に縁遠いイングラムにとっては答え難いお題だ。義兄妹と言う関係が更にそれを難しくしていた。
「むう……今から独り言を言う」
「え?…え、ええ」
 態々そう言ってから先生は何かを口走ろうとした。それは暗に質問等は受け付けない純然たる意見の表れだと言っている様だった。

「寝込みを襲うのはどうだ?」

「…へ?………ぇ、ええ~~~!!?」

「家族同士での恋愛…世間から見れば真っ当ではない関係だ。ジョシュアが常識人ならば、常道の恋愛のセオリーでは撥ね付けられる可能性が大いにある」
「だ、だからって…それは///」
 派手な服装に反してリムは初心だった。顔を真っ赤にしてその時の光景を夢想している様だった。
「邪道だが、そう言う時に生きてくるのが既成事実だ。上手くいけばそのまま篭絡出来る」
「確かに…そうですけど」
 ツラツラと自分の意見を述べていくイングラムの視界にはリムは最早入っていない。
「だが、この方法は諸刃の剣だ。失敗すれば今の関係は修復不能な程に壊れるだろう。身内に襲われれば誰だって切なくなる」
「・・・」
 イングラムはただ語るだけだ。その言葉には甘い毒が含まれている様な錯覚をリムは感じた。
「加えて…そうならなくとも、ジョシュアがお前のモノになるとも限らない」
「それは…?」
「体を縛れたとしても、心までそうなるとは限らないと言う事だ。特に、アイツの心に他の女の影がある場合はな」
「…っ」
 リムの顔に影が差す。奥歯は硬く噛み締められ、ギリギリと音が聞こえてくる程だった。イングラムはそれについては追求しない。深く関与して火傷を負う事は避けたいのだ。
「あくまで、独り言だ。勧めもしないし、そうしろとも言わない。が、そもそもが歪な形の恋愛だ。危ない橋を渡る必要性が確実に生じる事は覚えておくと良い」
「アニキ……」
 そうして、イングラム先生の相談室は幕を閉じた。後半、イングラムは言いたい事を述べただけだったが、リムはそれについて何かを考えている様だった。

「少佐…どうも、有難う御座いました」
「最後にもう一つ。既成事実の延長だが、女には産んだ者勝ちと言う言葉がある。真性の外道な手段だが、お前がそれを使わない事を祈ろう」
 部屋から去るリムにイングラムはそう言った。冗談でもなければ惑わす為でもない。ただの言葉の羅列でもなかった。
「どうするかはお前の裁量次第だ」
「…熟慮します。少佐」

「……情が深いのだな。クリスも、リアナも」
 上等な士官用の椅子に踏ん反り返りながら、イングラムが漏らす。そんな義妹達に慕われているジョシュアは果報者だと思ったのだ。
「だが…少し、気になるな」
 そう考えるとイングラムの心に心配が沸いてくる。今の南極義兄妹は非常に危ういバランスの上に成り立っている。今日の一件でそれが崩れてしまう可能性が十分考えられたのだ。
「チッ…最後まで責任は持つか」 
 それから暫く、イングラムは似非兄妹を遠巻きに観察していた。何か良くない事態が起これば直ぐに駆けつける算段を立てていたのだ。
 だが、一週間経ち二週間経ったところで彼等に異変は全く見られなかった。それどころか、徐々にジョシュアとリムの距離感が無くなっていっている事にイングラムは気付かされた。
「考え過ぎだったか…」
 イングラムは見守る事を止め、自分の生活へと戻っていった。
 しかし…


―――BAR ヒリュウ
 リムとの一件から三週間が経過した。イングラムはBARの定位置であるカウンターの隅で壁に会話をしながら酒を楽しんでいた。
 そんな寂しいワカメ青年に近付く一つの影があった。その人物は臆する事無くイングラムに言った。
「隣…宜しいですか?」
「む。…お、お前は…?」
「…どうも」
 イングラムには及ばないが中々の高身長を誇る男だった。彫りの深い端正な老け顔の青年で、その体からは苦労人オーラが滲み出ている。
「ヨシュア=ラドクリフ…」
「あのー…発音が違うんですが」
 先生の発した冗談にジョシュアは直ぐにツッコミを入れた。社会人としてのマナーは持っているらしい。
「まあ、そんな事は良い。お前が俺を訪ねると言う事は…」
「はい。今…お時間は宜しいですか?」
 どうやら、来るべき時が来たらしい。よりによって今のタイミングで来るとはイングラムにも予想外だった。そして、その理由もだ。
「成る程。相談事か。それも義妹の事。…違うか?」
「っ!?…良く、解りましたね」
「…顔と目を見れば判るモノだ。口ほどに物を語るからな」
 イングラムはそう言ってごまかした。どうやら、リムはジョシュアに相談の件は話していないらしい。
「それならば話が早いです。聞いて、頂けますか?」
「無論だ。話せ」
 今回に限りイングラムは乗り気だった。若し、自分の助言が原因で義兄妹に不協和音が鳴っているのなら、それを正しく調律するのが責務だとイングラムは思ったのだ。
「それで義妹…リムの事ですけど」
「ああ。知っている。仲の良い兄妹と聞いているが」
「…はい。俺自身、そう思ってます。アイツが引き取られて来た当初から、喧嘩とかも無くて…研究で忙しい親父の代わりに俺がずっと面倒見てきました」
「義理の兄であり、またお前は半ば父親の代わりでもある…か」
 つまりジョシュアはリムの傍らに居ながら、妹の成長を見てきたと言う事だ。自分自身が成長しながらだ。
 イングラムは残念ながらその過程には興味が無い。興味があるのは今何が起こっているかだった。
「で、その可愛い義妹がどうしたんだ?」
「―――それは」
「…言い難い事か?」
「え、ええ…」
 躊躇いがちにジョシュアは頷く。イングラムは少し困った顔をした。話の内容を何とか聞き出したい処だが、無理矢理に聞くのはマナーに反する。だが、聞かねばならないのだ。
「ショーン副長!」
 イングラムの取った行動は速く、カウンター越しにマスターにこう言った。
「注文ですかな?」
「彼に…そうだな、メスカルのダブルを」
 あろう事かイングラムは酒に酔わせる作戦に出た。


「なっ!?」「少佐…彼は未成年では」
 ジョシュアは当然驚いた顔をするが、イングラムは無視し、マスターを懐柔する事に努めた。
「責任は俺が持つ。それに…素面では話せない内容らしいのでな」
 チラ、と横目でジョシュアを見て、イングラムは深い韻を含んだ静かな声色でショーンに頼み込んだ。そんな滅多に見せないイングラムの態度にショーンはやれやれと言った顔を覗かせる。
「ふう…少佐の我侭にも困ったものですなあ。……特別ですぞ?」
「済まない。恩に着る」
「いえいえ。貴重なお得意様ですからな。…しっかり責任は持って下さいよ?」
「承知している。その為に必要な事だ」
 ショーンは一瞬難解な顔をしたが、直ぐにそれが判った様で酒を作り始めた。
「しょ、少佐!俺は…酒は」
「安心しろ。俺の奢りだ」
 当然、ジョシュアはイングラムに食って掛かるがイングラムは至極大人な対応でジョシュアを諌めた。
「い、いや…そう言う事では」
「飲む飲まないはお前の自由だ。だが、この先口走った事は酒の席での戯言だと片付ける事も出来るがな」
「そっ、それは…っ」
「…どうする?」
 駆け引きと言う点でジョシュアはイングラムにはまだまだ及ばなかった。
「少佐……ひょっとして、不良ですか?」
「何を今更。俺は悪人だよ」
 悪びれる様子は無く、イングラムは口の端を歪めるだけだった。
「……苦い、ですね」
「直ぐに気にならなくなる。…もっと飲むか?」
「いえ…」
 運ばれてきた酒を憮然とした面持ちで舐めていくジョシュアは微笑ましかった。

「それで…リムの事ですけど」
「ああ。どうかしたのか?」
 酒の力がジョシュアを前向きにしたらしい。イングラムの方は見ずに語る様にジョシュアは呟く。
「俺…ある時期からリムを意図的に遠ざけてました」
「む?」
「側で見てきたから判るんですよ。その…リムがどんどんと丸みを帯びてくると言うか、目のやり場に困ると言うか…」
「……女を感じたか?」
 イングラムは直球をジョシュアのハートのど真ん中に投げつけた。
「ぐっ!?…ッ、げほ!!……ス、トレート…ですね」
 会心のクリティカル。酒を嚥下中だったジョシュアは咽て涙目を浮かべた。
「別に恥じる事ではあるまい?お前も男なのだからな。で、それがどうかしたのか?」
 これでリムが以前言っていた義兄が素っ気無いと言った理由がはっきりした。きっとジョシュアは義兄として過ちを犯さぬ様に身を遠ざけたのだろう。
 それ以外にも仕事が忙しい等の原因は考えられるが、それが一番の要因だと考えて間違いは無さそうだ。義兄なりの優しさの発露。
 …何ともプラトニックでイングラムは笑えて来た。
「また…リムが接近して来たんです」
「それはお前につれなくされて寂しかったんだろうさ。問題は無いだろう?」
「ええ。リムが俺に懐いてるのは知ってましたから、それも良いかな?…とは思っていました。でも、そこから先が…」
「っ……お前には許容できない事でも起こったか?」
―――来た
 イングラムはそう思った。ここから語られる事こそが核心。リムを煽った責任を感じているイングラムは気が気でなかった。
「リムが…必要以上にベタベタしてくるんです」
「ベタベタ?」
「……人の見ていない所で頻繁に抱きついて来たり、良く密着してくるんです」
「ふむ」
 イングラムがタンブラーを呷る。周囲の空間がピンク色した不思議時空に変わった気がした。
「この前なんか寝込みを…」
「っ!」
―――ドクンッ
 イングラムの心臓が高鳴った。


「寝込みを狙われて、ベッドに侵入してきました。訳を聴いたら…寂しかったって」
「む?……そ、それから?」
「それからも毎日の様に添い寝を希望しに来たりして……困ってるんです」
「……それだけ、か?」
「それだけって!…俺にしたら、重要な事です」
「・・・」
 ほぅ、とイングラムが胸を撫で下ろした。どうやら最悪の事態には至っていないらしい。心配は杞憂だった事に気付かされたイングラムは煙草に火を点けた後に言った。
「単刀直入に言うが、それはリムがお前に気があると言う事だ」
「っ!?…そんな。俺達は、兄妹」
「だが、血は繋がっていない。それ以前に男と女だ。どう転ぶかなぞ、誰にも予想は出来ん」
「・・・///」
 ジョシュアは赤面しながら俯いてしまった。イングラムは天井に煙を吐きながら口の端を釣りあがらせた。
「考えても見ろ。例え兄妹だとしても、気が無い男の元に夜にやって来たりはしないだろう。それだけ、リムがお前にメロメロな証拠だよ」
「………俺、自惚れて…良いんでしょうか?」
「言葉が欲しいのか?なら、言ってやる。お前はリムに愛されている。男としてな」
「俺が…リム、の」
 ジョシュアは揺らいでいた。此処がチャンスと思ったイングラムは一気に畳み掛ける。
「お前が兄としての体裁を気にする気持ちも判らんじゃない。だが、そうした義妹の気持ちに応えてやるのも義兄としての器量だと思う。…義妹の女を立ててやったらどうだ?悩んでいると思うぞ」
「でも、俺には………」
 ジョシュアの顔にリムと同じ様な影が差すのをイングラムは見逃さない。何かある。だが、イングラムはそれに踏み入りたくない。
「…具体的に、どうすれば」
「そんなのはお前次第…と、言いたい処だが、此処まで来て匙は投げん。そうだな…」
 モクモクと煙草の煙に包まれながら、先生は考えた。ジョシュアや副長が煙たそうな顔をしているが、先生は気にしない。
「先ず…二人きりになる機会を作れ。一日かけて遊び回って…ショッピングや遊園地でも良い。その後に食事にでも誘って、今の様に酒に酔わせて聞いてみろ。アイツの本心をな」
「酔わせて…って」
「状況によっては酒は自白剤と何ら変わらない。今のお前がそうだろう?」
「はっ…確かに」
 イングラムの言葉にジョシュアは一条の光明を見出した様だ。その顔は今イングラムが言った事を実行する気で満ちていた。

「少佐…貴重なご意見、有難う御座いました」
「ああ。…女は魔物だ。お前が他に心に決めた女が居るのなら、喰われん様にする事だ」
 去り際は鮮やかに。ジョシュアはほろ酔いのままBARを後にする。イングラムは静かに苦労人を激励してやった。
「また…来て、良いですか?」
「来る者は拒まん。待っているぞ」
「はい!失礼します!…ご馳走様でした」
 ジョシュアは微笑を浮かべながら去っていった。

「見事な手合いでしたな、少佐」
「副長…なに、人事も俺の職務の一つなのでね」
「はて…?彼は少佐の部下では無い筈では」
「それでも、だ。…俺も、寂しいのかもな」
「なるほど」
 そう言ってショーンはイングラムに新たに注がれた酒を差し出した。
「?…俺は、注文は」
「サービスです。少佐」
 ショーンはにこやかに笑うだけだった。
「…遠慮なく」


 数日後…BAR ヒリュウ
「どう言った風の吹き回しかしら?」
「少し、考えを改めた…否、改心したんだ」
 定位置に座る先生の隣には、彼の片割れが座っている。
 …ヴィレッタ=バディム(プリスケン)。彼と同じく青い髪をしたクール&ビューティーの代名詞だった。
「何かあった?」
「…家族について、考えさせられる機会があったのでな。それで…」
「ふーん?何か、駆け込み寺をやっているって噂になっているけど」
「成り行き上、な。…似合わないとは思うが」
 イングラムは頬を掻いた。気心が知れたヴィレッタが相手なので自分を隠す必要も無いのだろう。その顔は照れ臭そうだった。
「あら、そんな事は無いと思うけど?」
「?」
「貴方が誰よりも優しくて傷付き易いって事は私が知ってるから。だからこそ、親身になって他人の相談に乗れる…違う?」
 片割れ宜しく、ヴィレッタはイングラムを良く理解している。そしてそれは殆ど当たっていた。
「俺は…優しくなんか」
 だが、イングラムはそれを認めたくない。即座にその台詞を否定するが、ヴィレッタは追撃を止めなかった。
「嘘。本当にそうなら、私の事をこうして誘ったりはしないんじゃないの?…正直、貴方に忘れられてると思ったから、嬉しかった」
「む」
 色々と言いたい事はあったが、そんな事は瑣末事に成り下がった。こうして、誘った事を喜んでくれているなら甲斐があったとイングラムは思う。
「あ、駄目よ?」
「何がだ?」
 何かが気に入らなかったのだろう。ヴィレッタはイングラムを少しだけ不満そうに見た。
「前から言おうと思ってたけど、貴方はもっと笑った方が良いと思うわ。…殆ど私しか知らないのは勿体無い」
「笑顔、か?…笑い方を覚えていれば笑うのだがな」
「皮肉は聞きたくないわよ。結構、魅力的なのよ?」
「自分では判らない。だが…」
「え?」 
 そう言ってイングラムは爽やかに微笑を湛え、こう言った。
「努力はしてみよう」
「///……ひょっとして、狙ってやってるの?お兄ちゃん?」
「それはお前だ、妹よ。そしてお兄ちゃん言うな。甚だ不気味だ」
「…バカ」
 プリスケン兄妹の仲は取り合えず良好だった。ショーン副長はにこやかにその光景を眺めていた。

 その後、南極一家を訪れたイングラムは心身共に仲良さそうにしている義兄妹を見て、冷や汗をかく事になる。
 物陰から恨めしそうに睨む雪女が一人居たのだ。ジョシュアの顔色も何だか悪そうだった。





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602 :名無しさん@お腹いっぱい。 :2007/02/16(金) 21:35:04 v+l94gV+
潤いのある生活を貴方に。
仲の良い兄妹には憧れます。

駄文失礼


603 :名無しさん@お腹いっぱい。 :2007/02/16(金) 21:40:03 bEXE1pDK
>>602
超GJ。



604 :名無しさん@お腹いっぱい。 :2007/02/16(金) 21:40:13 wu6QUfYz
>>595-601
長っ!!そしてGJ!!
助手リム初めて読んだかもしれん

つーか田中敦子ボイスでお兄ちゃん言われたら萌え死ぬるわww


609 :名無しさん@お腹いっぱい。 :2007/02/16(金) 21:57:11 Q8vtFkyO
>>595-601 GJ!

コレは義兄妹として仲がいいのか、恋人として仲がいいのか、が気になる


612 :名無しさん@お腹いっぱい。 :2007/02/16(金) 22:09:17 WaJ+POH3
【Cream Lemon】
ヴィレッタ「お兄ちゃん♪」
クォヴレー「兄さん」
アヤ「お兄様♪」

イングラム「血縁ルートゼロの3人同時攻略か……フッ、悪くない」
リュウセイ「なんか混じってるし――ッ!?(ガチャピーン)」



613 :名無しさん@お腹いっぱい。 :2007/02/16(金) 22:10:06 J6lmmCUI
>>609
> その後、南極一家を訪れたイングラムは心身共に仲良さそうにしている義兄妹を見て、冷や汗をかく事になる。
> 物陰から恨めしそうに睨む雪女が一人居たのだ。ジョシュアの顔色も何だか悪そうだった。

…この一文から察してやってくれ
しかしイングラム先生、大人だが不良だな…w


614 :名無しさん@お腹いっぱい。 :2007/02/16(金) 22:15:45 0HC6Zp4V
ウェントス「ジョシュア、ちょっといいかい?」
ジョシュア「ウェントスか、どうした?」
ウェントス「うん、ラキの事なんだけどね」
ジョシュア「……ラキがどうかしたか?」
ウェントス「最近、機嫌があんまり良くないみたいなんだ。
『最近、ジョッシュが構ってくれない』っ言ってね」
ジョシュア「う……!(そう言えば、最近リム達に付きっきりな状態になってしまってるな)」
ウェントス「だから、もう少しラキと一緒にいてあげてくれないかな?
ラキの兄としてのお願いだ」
ジョシュア「だが……」
ウェントス「リム達といる時間を短くしてほしいんじゃない。
むしろ、そのままでいてあげてほしいと思ってる。
ジョシュアといる時のリム達は本当に嬉しそうだから。
だけど、ほんの少し!ほんの少しでもいい!
ラキと一緒にいてあげてくれないか!?
彼女にも笑顔を与えてほしい……!お願いだ……!ジョシュア!」
ジョシュア「ウェントス……」


>>595-601
見てたら何となく思い浮かんだ



619 :名無しさん@お腹いっぱい。 :2007/02/16(金) 22:25:19 xTSszznG
>>614
過ちママ「誰かと一緒に居ると、他の人と離れなければならない
      ならば…3人一緒に…いや、家族みんなで一緒に居れば良い」
助手(…その答えはどう見ても)
キモ(過ちじゃないね(ニコニコ))



624 :名無しさん@お腹いっぱい。 :2007/02/16(金) 22:31:27 Fy9BsIxg
>>619
最近過ちさんがガチで母親が板についてきてるな…

過ちさん「だから、みんなで一緒に過ごす…家族の団欒…夕食も一緒…だから今日は鍋」
助手(…気持ちは嬉しいけど、何か形容しがたいものが浮かんでいる鍋と言うのも…)
キモ(この辺りは相変わらず過ちだね…)


でも、未だ食事は何か形容しがたい料理を作りそうな気がするんだ。
父親が完璧親父だしな~


626 :名無しさん@お腹いっぱい。 :2007/02/16(金) 22:32:38 W4e1fw68
>>624
南極名物ショゴス鍋か…

ああ、窓に! 窓に!


629 :名無しさん@お腹いっぱい。 :2007/02/16(金) 22:35:41 bNwfxOFl
>>626
て・け・り~り~?


投稿者 ko-he : 2007年03月16日 21:03 : OG萌えスレ131-135

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コメント

串田イバーが…切なく聞こえてきたよ…。

投稿者 雷精 : 2007年03月17日 08:00

gjだ

投稿者 Anonymous : 2007年03月17日 10:04

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