ヒリュウ改やハガネを構成する人間たちは、軍人というカテゴリーの中でもかなり柔軟 な思考形態をしているといえるだろう。それは、彼らの半分以上がイリーガルな人員であ る点からも伺える。非軍人、元敵軍、脱走兵から本来なら存在するはずの無い人員、人間 ですらない連中まで、様々な人員が、この部隊には席を置いている。  本来ならば、軍という組織において、このような事態はありえてはいけないのだ……ま してや、元敵やらスパイやらを通常の軍人と同じように運用するなど、最も忌むべき行動 といえる。許容した瞬間に軍として機能しなくなる可能性のある、危険極まりない行為だ。  それらを平然と受け入れ、なおかつ軍隊として比類なき戦果を上げている……強いとい う理屈だけでは片付けられない。その柔軟な思考から生まれる意思の力が、彼らの力を増 しているのだ。  実際、単純な戦闘能力だけならば、今までこの部隊が撃破してきた連中の方がよっぽど 強いのだから。……ダー○○○○○とか○○クブ○○○とか○○○○レインとかダ○ク○ レ○ンとか。ぶっちゃけアレ反則だろ(作者の魂の叫び) 「〜〜〜」  今、自室で目を覚ました少女も、そんな非正規の人員の一人だった。もぞもぞと羽毛 布団から這い出して、両目を眠たげに瞬かせる。  水色の髪の毛を盛大にボンバらせている少女の名前は、アインスト・アルフィミィ…… カテゴリとしては、人間ではない連中に当てはまるだろう。  アインスト・レジセイアが新しい生命を生み出す為に、エクセレン・ブロウニングを元 にして作り上げたのが、彼女だった。  その彼女が、今ではエクセレンの扶養家族としてヒリュウ改の一室に住み込んでいるの だ。勿論、ただで軍艦に乗っているわけではなく、戦闘要員として前線で大活躍している。  ――ここからは完全な余談になるが。  このヒリュウ改、世界観的にはOGSやOG外伝ではなく、OG萌えスレの世界観である。 『なんだかよく分からんが方々の組織と和解して、死んでる人たちも生きてますYO!』な 世界観だ。おおやけにヒリュウ改やハガネクロガネが相手にするのは、ノイエDC残党だ けである。  よって、部隊を構成する戦闘員たちは、原作通りとは行かないのだ。敵にとって悪い意味で。  一番分かりやすいところで行くと、SRXがバンプレイオスになってたり龍虎王の頭に真 がついてたり、死んだはずのオウカ姉さまとラピエサージュとか反則級な方々がいたりす る……で、敵はOGSとかみたく、ガーリオンとかシーリオンとか。  しかも味方機体は全機フル改造。ゲームみたいに出撃制限なんて無いから、数も多い。  追い討ちをかけるように凄いのが、時々思い出したようにやってきては彼らに加勢する 第三勢力の存在だ。  簡単に並べてみよう。 ・ ゼンガーパパとアイビスの敵には容赦せん! ラスボス使用ナシム・ガンエデン! ・ 旦那の敵は私の敵です! 良妻賢母! アウルゲルミルでソフィアさん! ・ 地球の素晴らしいオッパイは僕が守る! バルマーどうしたルアフ様! ・ 孫への加勢だゼェェェェェェェェット! 兄貴兄貴! ケイサルの兄貴ィィィィィィィッ! ・ 娘達がいつもお世話になったお礼に戦闘に参加するのは過ち? デュミナスさん一家! ・ 絶望する負の感情が美味! 食事代わりだ完璧親父とルイーナ軍団! ・ 友達が戦うなら黙ってられない! 黒さが抜けて兄さん感涙なウェンドロ坊ちゃん! ・ リュウセイとは合体マニア繋がり! エイス巻き込みガドル・ヴァイクラン! ハザル坊ちゃん! ・ 我こそは以下略! バラン・ドバン! ・ 恋人のピンチに駆けつけるのは、恋人が怖いから! アル=ヴァン! ・ そのサイズで地上に現れるのはずるいと思います……娘が心配? シュテルンレジセイア! ・ 坊ちゃんの面倒はわいらがみる! 中身はギャグでもナリ(機体)はラスボス! そりゃ詐欺だよダークブレイン以下悪役軍団! ・ 若い燕……もとい! トウマ君とのフラグ設立に地味に努力します! ミッテ博士とAI1!!  ……他にもまだまだいる。こんな連中が、気まぐれでフラッと現れてはヒリュウ改クロ ガネハガネを助けているのだ。  想像してほしい。  こんな連中が『ボス時のステータス』そのままでユニット参戦してくるその光景を!  繰り返して言おう。敵はガーリオンとかシーリオンとかだけな、ノイエDC残党だけ。  ……敵。涙目。  そんな最強軍団においても、一線級の実力者として知られるのが、アルフィミィだった。 元々が人間ではない上に、最近ではゼンガーやリシュウに鍛えられ、その戦闘技術には更 に磨きがかかっている。レッドオーガの名前は伊達ではない。フル改造ベルゼインは反則である。  だが、いかに強かろうが、彼女はまだまだ子供なのだ。  同い年の子供たちと遊ぶ光景は、クリスマスに『弟か妹が欲しい』と無邪気に言い放っ た一件は、彼女の幼さを象徴している。  しょぼしょぼと両目を瞬かせ、アルフィミィはベッドから這い出した。片手に持ってい るのは、南極一家の長男がプレゼントしてくれたぬいぐるみ『べるぜいんくん』だ。彼女 の愛機が可愛らしくデフォルメされた代物で、寝る時はいつも一緒なお気に入りの一品である。 (……エクセレン?)  そして、そこまで動いてからようやく、アルフィミィはこの部屋の主であるエクセレン の不在に気付いた。広いキングサイズのベッドには、アルフィミィが一人いるだけ……い つもなら、同じ布団で寝ているはずだというのに。  寝惚けた頭で考える事しばし…… (ああ、そういえばそうでしたの)  思い出し、アルフィミィはポンッと手を打った。  昨夜はお正月だという事で、キョウスケと二人きりにするためにアルフィミィのほうで 気を利かせたのだ。今頃は、二人でしっぽりしているはずである。 (いい女は気配りが出来ますの……)  せっかくの正月だが、元日には三人でお参りにも行ったし、御節も食べた。お年玉も貰 ったし、お餅も美味しかった。十二分にお正月を満喫したといえる。  だから、残った三が日の夜ぐらいは、二人きりにさせてあげようという、幼いなりの心遣いだった。 (もう少ししたら、キョウスケのお部屋のおこたでヌクヌクですの♪)  すぐに行かないのも気遣いである。ODE(おいまてや どうしてこんな朝っぱらから エ ロスな光景作ってんだ!)システム的な気遣いである。もっと言うとアノ二人はODEシス テムの後、そのまま眠っちゃうタイプだった。  ……周囲が終始ODEシステムチックな空間作ってくれちゃってるため、やたらと耳年増 なミィちゃんだった。  どのくらい待てばいいのだろう、そんな事を考えながら、洗面所に向かおうとしたその 時……アルフィミィの足に、何かが当たった。奇妙にやわらかい……人間のような感触。  何事かと見下ろせば、足元に丸々としたシーツの固まりが一つ転がっていた。 「?」  ――確かに、エクセレンの部屋はお世辞にも綺麗とはいえない。汚部屋とまでは行かな いが、忙しい女性の独り身部屋と変わらないくらいには雑然としている。  だが、今はお正月……年末大掃除の直後なのだ。床にシーツなど落ちているはずも無く。  しかも。  そのシーツは、明らかに蠢いていた。まるで、中に何かが潜んでいるかのように。 (一体、何ですの?)  この部隊は大所帯で、整備員の中にはアルフィミィにハァハァするようなロリコンも何 人かいるが……相手が寝入ってる最中に侵入試みるような輩は一人もいない。以前はいた が、オウカとアヤを初めとする『幼女保護者軍団』によって徹底的に排除されている。  アルフィミィがそのシーツを引っつかみ、何のためらいもなく引き剥がしたのは、そう いう背景があってのことだった。明らかに不振なこの物体に対し、自分の敵ではないとい う根拠の無い安心感を抱いていたのだ。 「――!」  シーツの中から現れたもの。  それを目にしたアルフィミィの表情が……普段表情が動く事の少ないこの少女の表情が、 思いっきり喜悦に染まり、輝いた。  冒頭でも言ったが、ハガネクロガネヒリュウ改の面々は、とっても柔軟で図太い神経を お持ちである。  その彼らをして一寸した大混乱に陥れるドタバタ騒ぎの、これがきっかけであった。  ――ゲーム中では一切で番が無く、忘れられがちな話ではあるが、ハガネクロガネヒリ ュウ改にも一般乗組員はちゃんといる。  整備員、オペレーター、食堂の料理人等……合計で200人は超えるだろう。結構な大所帯である。  一時期、突撃しすぎるパイロットが原因で整備員との間に軋轢が出来たりもしたが、今 では至極マッタリとした良好な関係を築いている。  その中でも、パイロット達と特に親しいのが、調理長のトクさんだ。いや、パイロット に関わらず、部隊にいる人間全てと関わりが深い。  ハガネクロガネヒリュウ改の部隊の中でレーツェルに次ぐ料理人であり、上に立つのが パイロットとの兼任である事から、実質的には部隊の料理人の頂点に立つお人である。  大食い三人組や、甘味三人組、料理の練習の為に厨房を貸してもらっている料理下手組 み……彼らに限らず、食堂のお世話になっている人間全員が、彼には頭が上がらない。  料理を食べに来た人間の顔は決して忘れず、パイロットを合わせると250人近くいる部 隊の人間全ての顔と名前が一致するというから凄い。落ち込んでいる人間がいると人生相 談のようなこともしてくれるため、皆から父親のように慕われている。  ……こんな言い人なのに、実生活では奥さんに三行半突きつけられて、子供も一緒に出 て行かれたというから、人間中々奥が深い。諸事情もあり面会する権利すら与えられなか ったそうな。  そのことをさびしく思っても間違っているとは思っていない。実際、彼は仕事人間であ り、仕事のために家族をないがしろにしてきたのだ。実際、軍艦勤めの人間にとって、離 婚親権剥奪はなんら珍しい事ではない。  土日祝日出勤は無論のこと、なんと年末年始に至るまで職場にいたのであるこのおっさ んは……おせち料理も兵士のそれを作る事を優先し、家族のそれは余り物で済ませていた というから、愛想つかされて当然だった。  だからだろうか? 彼がアルフィミィやラトゥーニといった、少年少女兵士をことさら 気にかけているのは。  奇妙な下心ではなく、どこか子供と重ね合わせているのだろう。ツマミ食いその他に激 しい雷を落とすトクさんも、彼らに対してはどこか対応が甘い。 「――?」  朝も早くから厨房に詰めていたトクさんは、背後に気配を感じて動きを止めた。  気配を感じてって辺りが明らかに只者ではないおっさんである。 (……まぁーた、アノ三人か)  トクさんがその気配から連想したのが、大食い三人組。  料理人として長い経歴を誇るトクさんを、その食欲で病院送りにした事のある剛の者達 である。彼らはその異常な食欲ゆえに、食堂関係者の間では有名人だ。  つまみ食いの常習犯でもあり、ブラックリストのTOP10常連。先日も、造りかけの御節 をつまもうとした彼らに拳骨を降らせたばかりであった。 (たっく、こりねーなぁ)  そう思いつつ、悪い気はしないのだ。彼らは実にいい笑顔で料理を食べるし、出された ものはずべて平らげてくれるし、美味いとも言ってくれる……つまみ食いする理由によど みなく『美味しそうだったから!』と答えるのはどうかと思うが、責任者としては兎も角、 料理人としては悪い気はしない。  むしろ、食べる時のあの笑顔は、料理人冥利に尽きるというものだ。  状況によっては激務が重なり、食事を残される事が多い軍艦において、アラド、テニア、 イングの食欲は一つの清涼剤だった……正月だと、二日酔いしでろくに食べられない阿呆 が多いので特に。  だからといって見逃すつもりはさらさらない。しつけにも悪いし、第一完成してない料 理を食われるのは料理人としてのプライドが傷つけられるのだ。  とりあえず、雑煮の出汁尻る野鍋を見ながら、背後の気配をうかがう。  気配が、静かに静かに自分の真後ろを横切ろうとして所でバット振り向き―― 「 ク ォ ラ ー ッ ! ! ! ! 」 「!?」  怒鳴った。そりゃあもう、力の限り。  神雷とか目じゃない、見事な雷の落とし方だった。あまりの大声にビビッて、侵入者は こてんと尻餅をつく。不埒なつまみ食い犯に対し、トクさんは続けて怒鳴りつけ、 「この悪餓鬼共! いいかげんに――?」  ようとして、止まった。 「ご、ごめんなさいですの」  恐れよりも茫然自失とした様子で謝るその人影が、予想した人間とはかけ離れていたか ら。ベルゼイン模様の真っ赤なドテラを来たその少女は……つまみ食いとはもっとも縁の 遠い人物だったのである。 「おめー……アルフィミィじゃねーか」 「……はいですの」 「わ、悪い。てっきり、アラド達がつまみ食いに来たもんだと……」  尻餅をついたアルフィミィを助け起こしながら、必死で謝るトクさん。悪餓鬼怒鳴った つもりで力の限り怒鳴ってしまった。 「それで、おめーさん、何の用があってここに来たんだ?」 「………………えっと。お、お散歩ですのよ。お散歩」  尻餅をついたアルフィミィを助け起こしながら、トクさん苦笑い。  どうやら、人間が予想とは違っても、目的の差はなかったようである。口ごもるミィの 反応が、いい証拠である。  第一、早朝の厨房に外部の人間がこそこそ忍び込んですることなど、一つしかあるまい…… 「なんだぁ? 腹でも減ったのか? だったら、エクセレン辺りに菓子でも――」 「エクセレンなら、今キョウスケといますの」 「は?」 「二人きり」 「あー……えらいなぁ、おめぇは」  にっこりと笑うアルフィミィの頭に手を置いて、トクさんはわしゃわしゃと乱暴になで 上げた。幼いなりの気遣いを褒めるつもりでやったのだが……アルフィミィはいやいやを しながら体をよじった。 「髪が……乱れますの……」 「……どの道乱れてんじゃねぇか」  ミィちゃん、髪が寝癖でボンバッたまんまである。  カカと笑うトクさんは、撫でていた手でアルフィミィの肩を叩き、 「今なら共同浴場が空いてるはずだから、風呂にでも入ってさっぱりして来い。  ――風呂上りに雑煮作ってやっからよ。何がいい? 雑煮つっても、一杯あってな……」  実際、トクさんの目の前には、10近い寸胴鍋が火にかけられており、それぞれに全く違 う種類のだし汁が張られている。お汁粉方式のための餡子もあるし、鰹出汁の関東風、白 味噌出汁の京都風等……日本人以外でも食べれるように、洋風のスープまである。こっち はレーツェルの管轄なのでトクさんは火の晩をしているだけだが。  具もハマグリ、鰤、スルメ、蒲鉾、小松菜、椎茸……全国の御節全てを網羅している。  餅の数も個人個人で違うし、日本生まれで故郷のお雑煮というものがある連中は兎も角、 他の連中はその時の気分で雑炊の種類を変えたりするため、この部隊でお雑煮を作るとい う作業は、実質オーダーメイドに近いものがある。  セルフサービスにはしない。一部の大食いや甘味狂いのせいでえらい事になるだろうから。 「餅も焼いたり煮たりで処置の仕方が違うんだ……おめぇさんは焼いた方が良いか?」 「あ、いえ……私が食べるわけではありませんの」 「――なぁる」  慌てて合いの手を入れるアルフィミィだったが、トクさんは特に不快に思った様子はない。  ……以前にも同じような事があったのだ。  イルイがこっそりザナヴを連れ込んで、内緒で飼おうとしたのである。実際には泣き声 その他でバレバレだったわけだが、トクさんは特に何も言わず、笑顔で猫飯を作ったものだ。  ――こいつの場合、野良アインストとかか? ちっちゃい骨みたいな奴もいるみたいだし、そいつらか……  考えながら手を動かし、トクさんはおせち料理の余りから適当なものをチョイスした。 伊達巻の端やら何やらを小皿に分けて、アルフィミィに手渡そうとした。  が、そこでふと思い至る。 「……あ」 「?」 「――人間と同じ味付けで大丈夫なのか? 玉ねぎとかなんやらも」 「猫じゃありませんの」  心外だとばかりに頬を膨らませるアルフィミィだった。  愛らしく怒りを表現する少女に、トクさんは苦笑をひらめかせて問う。 「悪い悪い……じゃあ、誰なんだ?  お前さんみたいなかわいこちゃんに食事持ってきてもらう果報者ってのは」 「弟ですの」  ――キラークイーン(違)、第一の爆弾発動。  にっこり笑顔で言い放ち、とてとてと自分の部屋に戻っていくアルフィミィに、トクさ んは何のリアクションも取らなかった。取れなかった。  不意打ちのリボルビングステークに固まっていたトクさんは、冷静に冷静にアルフィミ ィの家族構成を思い出す。  確か、彼女はアインストの作ったエクセレンのコピーで、今はキョウスケとエクセレン の被保護者となっているはず。それが―― 「は? 弟????」  ようやく再起動を果たしたトクさんだったが、疑問を晴らそうとしても、それを知る少 女は既にその場にいなかった。